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テーマ:詩&物語の或る風景(1047)
カテゴリ:こんこん飴売り
井戸端で里芋を洗い終わったのが申の刻のあたり。
見回してみるとあたりにはもう誰も居やしない。 暗くなったらおおごとだ、明るいうちに支度しなけりゃ! あたしゃ里芋の入ったザルを抱えあげました。 そして小走りに家に駆け込むとすぐに 水の入った鍋を火にかけたのでございます。 ヤレヤレ・・・ 里芋を山ほど洗ったせいか小腹が空いちまい、あたしは 新助の醤油飴を口に放りこみました。 アァ おいしい~ ! 飴の甘みと醤油の味がまるで体中に染みわたるよう・・・ これは売れるヨ。きっと。 湯が沸くまでの間に漬け物を切っておこうと 糠漬けの瓶(カメ)を引き出していると・・・あれまあ 外で水音がするような!??? おりしも聞こえてきたのが暮れ六つの鐘の音 . . . . . 気になるからと、外へ出てみると水音はどうやら井戸の方から してきているようでございます。 そっとうかがうと薄暗くなりつつある井戸端で 水を浴びている裸の男が一人。 「 どこのどいつか知らないが酔狂な奴もいるものだ 」 もうじき真っ暗闇になるってえのに、どういうつもりだい! とっちめてやろうと近づくと オオッ !!! 下帯(フンドシ)ひとつで向こう向きの そのお方は なんと!波池の旦那じゃござんせんか! とたんにそのお姿から後光がさすから現金なものでございます。 浅黒い筋肉質の体に真っ白な下帯がとても良くお似合い。 もちろんその凛々しいお姿はしっかりあたしの瞼の裏に 焼き付けられたって寸法でございます。ヒッヒ....... 「旦那、お帰りだったんですねえ。もう日も落ちる時分、 お風邪を召しますよぅ ~ 」 自分でもどこから出てるか判らない甘ったるくうわずった声で あたしが言うと 「お気づかい、いたみ入る」 ですって、サ。 もう、旦那ったら『 いたみ入る 』だなんて、 ほんとお堅いんだからぁ。イヤイヤ ン。。。 でもほぉんと素敵なお声! 柄にも無くほんのり頬を赤らめたあたしですが ちゃっかり酒盛りの約束を取りつけられたのは 上首尾でございました。 第六話 . お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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