2022/10/23(日)10:17
待賢門院堀河 長からむ心も知らず黒髪のみだれてけさはものをこそ思へ
小倉百人一首 八十
待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)
長からむ心も知らず
黒髪のみだれてけさはものをこそ思へ
千載和歌集 802
末長く変わらないお心なのかどうかも分からず
この寝乱れた黒髪のように心乱れて
あなたがお帰りになったこの朝は
物思いに深く沈んでいるのです。
註
恋愛の恍惚エクスタシーと不安感の両方を色濃く漂わせた秀歌。
長からむ:末長いであろう(心)。「長から」は形容詞「長し」の未然形。「む」は推量の助動詞「む」の連体形で「心」にかかる。「長し」「みだる」は髪の縁語。
心も知らず:(あなたの)お心なのかも知れないが。「ず」は打消しの助動詞「ず」の連用形で、「人はいさ心も知らず」(紀貫之、小倉百人一首 35)と同様、多くの場合逆接のニュアンスとなる。
黒髪のみだれて:「黒髪が乱れて」と「黒髪のように心が乱れて」の両義を表わしている技巧的な言い回し。
けさ:後朝(きぬぎぬ、衣々)。男女が思いを遂げたあとの朝。
ものを思ふ:物思いに沈む。憂愁(メランコリー)に沈淪する。・・・今風にいうと「ブルーになる」か。
* 与謝野晶子が、第一歌集『みだれ髪』(明治34年・1901)で、タイトルをはじめ数首で引用・本歌取りしている。
くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもひみだるる
その子二十 櫛に流るる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ