星の髪飾り

2006/10/01(日)22:13

「紅つけ指」   ピンクの封筒

                     Photo by kitakitune05さん  月の綺麗な晩だった。 オレンジの光を放ちながら、夜空の脚光を浴びて微笑む。 目に曇りが無い者だけが感じる月夜。  おそらく心に地球儀を持って生きる天才も、下ばかりを見て事象を感じない凡人も ふと頭を上げて、ゆとりの眼を空に向けたなら、きっと素敵な月に出会え、 うっとり心が和むのだろう。  ピアノがバラードに変った時、紫音の扉が開いた。 ラストに近い時間帯、空間に微妙が漂った。 美月は対角線上にあの人を見つけてしまうと、不自然に目を背けた。 絶えず付きまとっていた寂しさが消えたと同時に、体が熱く滴った。 何ボルトの電流が流れたのだろう? と美月は戸惑う。 ボックス席から美月が去ると、僅かな不満に頭を下げる日暮がいた。 ひと席にゆっくり沿えないことは、華にとっても気持ちがいいことではない。 指名の数より、使命の方に心を注ぐ華ほど、皮肉に持て遊ばれるものだ。  そしてわずか20分、、、美月は悦史のテーブルに付いた。 多くを語ることもなく、ロックのグラスを見つめながら俯く点。 点を目掛ける視線のいくつか、、日暮、純子、浅島、明海・・・・。 「後で少し、話そうか・・」 悦史がもらした。 コースターで遊びながら、はしゃぐ事も笑うこともしない無邪気から、あの度胸の存在を 探る悦史。 襲った男達に立ち向おうとするあの子は? 幾人もの女が存在した。 「少し・・・・・?」 「・・店が引けたら、あそこで待つ。 車、わかるね?」 悦史が去った。  華達が支配人と日暮の前に並んだ。 オーナーが毎月用意するピンクの封筒、NO.1。 その晩、華たちに給料が手渡された後、何時ものそれが始まった。 時間ばかり気になる美月を横目で見る明海と純子。 二人は既に美月の今宵を知っている。 どこで、どんな人と、どんな時を過ごすのか・・・くっきりはっきり見えている。 その夜の月のように、次第に陽炎に染まる落ち着きのない美月。  「はい! それでは、今月のナンバーワン賞。  美月ちゃん! 」 「・・・」 「早く前に出て!」 日暮が言った。 支配人が心ここにあらずの美月を捕らえた。 仲間がざわめき、拍手が沸いた。 「美月ちゃんだってー! 半年でナンバーワンよー」 「男を操ることも知らない癖に、ズルイ!」 トイレリンチの主犯だった胡美が言った。  無意識の積み重ね、ピンクの封筒。 美月はしなやかな両手でリボンの付いた封筒を手にしてしまった。 純子、明海、日向を抜いた指名の証。 どうでもいいそれ。  更衣室でそそくさと着替えた美月は華達の注目を他所に店を飛び出した。 「少し話そうか・・・」 半年前は色の無かった失意落胆の月が、舞うように外に飛び出ていった。 「少し」で終わらぬ夜をオレンジの月が追う。 走った先の車の中で男に しがみ付くもう一つの月がいた。 「会いたかった! 凄く凄く、会いたかった!」 悦史は健気を優しく包み込んだ。                   続く (火曜日 忠告)

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