カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
きょう2月11日は、黒澤映画の「顔」とも言うべき役者・志村喬の命日('82年没 享年76)。
その志村喬の代表作といえば、この映画が真っ先にあがるでしょう。そう‥‥「生きる」(監督・黒澤明 '52年作品)です! 上から命令されたことはやっても、「自分から何かをする」ということが一切許されない役所。 その役所に勤め、くる日もくる日も黙々と機械的に、生きているのか死んでいるのかさえわからないような無気力そのものの人生を送ってきた渡辺市民課長。 そんな彼がある日突然、自分が胃ガンで余命いくばくもないことを知らされ、 絶望の淵に叩き落され、「死ぬのはいやだ。生きたい‥‥!」ともがき、あがきまわる。 死の恐怖に押しつぶされ、真っ暗な長いトンネルを手探りで歩くような日々の中、渡辺は思う。 「自分は今まで生きている実感すらも味わうことがなかった。だからせめて1日でいい‥‥『私は精一杯生きた!』と胸を張って言えるような日がほしい‥‥」 絶望の果てに、彼は融通のきかないガチガチの役所の中で「自ら行動」し、長いことなおざりにされてきた、町の児童公園建設計画を実現しようと決意するのだった‥‥! 「七人の侍」の志村サンも大変な好演でしたが、「生きる」の彼はそれ以上です! 学校を出てからずっとお役所畑で、ほかの世界を一切知らない、絵に描いたような小役人を、それは見事演じきっています。 その小役人が、死を宣告されたことで、初めて本当に生きる‥‥ とても悲しく、皮肉だけれども、「だからこそ、生きるのだ」と決意し、上司や部下の制止を振り切り、果てはヤクザの脅しにさえ屈しない「蘇った男」を、ちっともカッコよくなく(むしろカッコ悪く)演じているのが、すばらしい! 夜、降りしきる雪の中、さまざまな障害を乗り越えて完成した児童公園のブランコを一人こぎ、「♪命短し、恋せよ乙女‥‥」(「ゴンドラの唄」)と静かに、優しい声で歌っている志村サンの姿は、モイラの目に焼きついて離れません。 作家風の得体の知れない男を演じた伊藤雄之助、渡辺の息子役の金子信雄、一生うだつのあがりそうもない下っ端役人の左卜全、おべんちゃらばかり言う渡辺の部下の千秋実‥‥ そうそうたる顔ぶれが、実に良い演技をしています。 黒澤監督は、何かお役所に恨みでもあったのか、お役所のダメなところを、それはそれは皮肉たっぷりに描いてますね。 モイラも以前、住んでいた場所の自治会で、典型的な小役人みたいな方とお話ししたことがありますが、その方は胸を張ってこうおっしゃってましたね。 「役所に何か頼んだってだめだよ。役所ってのはね、何もやらないところなんだ!それが役所なんだ!」 あ~あ、税金なんか納めたくない‥‥と、思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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