家族の絆
ミッキーがアトピーであると判ってからというもの一層食べ物には気を使い、低アレルギーである鹿肉のフードに切り替えた。すると皮膚の乾燥、痒みが治まってきたせいか、ハゲていた毛がだんだん蘇ってきた。 これから先も食べ物に気を付けながら、上手くアトピーとは付き合っていくしかない。 あんなにミッキーと敵対していた夫も、チビでおまけにアトピーまで抱えているとあってはさすがに不憫に思うらしく徐々に優しく接するようになった。すると不思議なものでミッキーも少しづつではあるが、夫になつき始め言うことを聞くようになってきた。そうなるとますます夫もミッキーを可愛いと思うようになる。あの地獄のような日々が嘘のように穏やかな空気に包まれていた。 シェパードに限ったことではないだろうが、雄犬は特に自分が群れのリーダーになりたいという本能を持っているらしい。家庭の中で誰がリーダーで自分の位置を常に窺い、隙あらばその力関係を計ろうと試みる。我家の場合でいうと私がボスであることは不動であるから、ミッキーは2番目を狙って夫に戦いを挑んでは殴られ、またしばらくしてチャレンジしては蹴られる・・・といったことを繰り返していたのだが、不良少年が本当の愛を知り更生するかのように状況が一転してしまった。あえてミッキーは3番目の地位に甘んじることにしたようだ。しかし娘のことは現在に至っても自分の下だと思っているようだが・・・・。 もうこうなると家族全員がミッキーを警察犬訓練所に預けるなどということは考えられなくなっていた。この子は決して頭は悪くない。いや、かなり頭がいいと思う。しかし、体力的、精神的にあの環境には耐えられないだろう。せっかく警察犬協会に登録しているのだから、いずれは警察犬にしたいと思ってはいたのだが、だからどうした?なんの意味があるの?と思う。所詮そんなの飼い主の自己満足であって、本当に犬が望んでいることなのだろうか?家庭犬として穏やかに一生を過ごせたら、そのほうがきっと幸せなのではないだろうか。そう、この子は私が産んだんだ。犬ではなく本当の息子だと思ってずっと一緒に暮らしていこう。今まで3人家族だった我家は、こうして4人家族になった。 まもなくしてミッキーは1歳の誕生日を迎えた。体重は目標だった30キロにもう少しで達するほどに成長した。でもまだまだ成長するであろう。誕生日プレゼントにブタのぬいぐるみをもらったミッキーはとても喜んだ。しかし次の日にはブタは見るも無惨に目玉は無くなり、耳は食いちぎられていた。それでも嬉しそうにブタと遊んでいるミッキーを、たまらなく愛しいと思う犬バカ一家であった。 -第二章 完-