= 親父と息子のがんとの戦い~実の母親のメッセージ~(2)=
時間と共に親父の容態は改善していった。しかし、がん細胞は身体の中にいる。このまま放っておけば、がんが転移してしまう。医師からは『化学療法(抗癌剤)』を勧められた。どの薬も同じだが、必ず副作用がある。抗癌剤は、一般に市販されているような生易しい副作用ではない。がん細胞を殺す代わりに、正常な細胞までも殺してしまう。人によって違うが、髪の毛が抜け、腹を下し、鬱になり、患者自身が不安に苛まれる。そして現在の化学療法は、効くか効かないか・・・賭けのようなものだ・・・それでも、判断しなくてはいけない。誰も判断してくれず、私が決めなくてはならない。本来ならば、親父に決める権利があるのだが・・・・告知していない。私は悩んだ・・・・・できる限り親父に不安をあたえないようにするには・・・・私は決めた・・・『抗癌剤を使おう』ただ、親父に気付かれるのは、時間の問題だ。でも、それまでは少しでも安心させてあげようと・・そして、共に病気と付き合おうと・・・・医療は決して完全ではない。そして、安全ではない。医療は両刃の剣・・・どちらを取るかは、医学的統計と経験、そしてその人の人生観と運それを皆に分かって欲しいと心の底で叫んでいた・・・・絶対は無い・・・心が押しつぶされそうな気がした。親父の喜んでいる顔を目の前にして・・・・そして『実の母親が残した闘病生活の日記』を思い出しながら【母親の闘病日記より】家族も友達も皆、私に優しくしてくれて有難う。でも、自分の病気が治らないことは知っている。そして、私は気付かないふりをしている。優しくされるほど、もうじき死ぬのかと思ってしまう。気遣いながらの優しさは、心が痛む。自分だけが別の世界にいるようで、孤独で寂しい。息子だけが何も知らない・・・・無邪気に私の世界に飛び込んできてくれる。そして、笑わせてくれる。でも、あなたに何もしてあげられない。ゴメンね・・・・・私がこの日記を目にしたのは18歳の時でした。涙が溢れて、止まらなかった・・・・・後悔と感謝で・・・・俺が、お袋に心配ばかり掛けていたのに・・・・こんなに思っていてくれて『ありがとう』病気は独りで背負い込むものではないと思う。皆で分け合えば、それだけ負担も軽くなる。医療とは簡単に割りきれるものではない。生きるも死ぬも、人々の定められた寿命があるのだから医療はそれだけ尊いものだと私は信じたい・・・・・>>>>>> つづく