里山の旅人(鉄・1)「開けて、いい?」夕食を終えて、部屋でくつろいでいると、タクミは、いつも尋ねました。 机の引き出しの二番目は、ナイフがいくつか入っています。 優美なフランスのライヨール、研ぎ出ししやすいスゥエーデン鋼のエカ、実用的なスパイダルコ、昔買ったブラックパールの宝飾ナイフ、もちろん、ビクトリノックスの赤いツールナイフもあります。 ひとつひとつ、開いては、何時間も眺めていました。 その中には、私が父から小学生の時にもらった、青い小さなナイフもありました。 中学生の時も高校生の時も大学生の時も持っていたんです。 「今度の誕生日にはタクミのナイフを買いに行こうね。」 「どんなのがぃぃかなぁ~」 「手にあった、使いやすいのがぃぃよ。」 * 私は、アウトドア用品店で、オピネルのナイフを見せて、 「どうだっ!」と、言いました。 実は、はじめからオピネルにしようと思っていたのです。 しかし、タクミは、刃のロックが気に入らないようです。 何時間も店の人に出してもらいながらいろいろなナイフの刃を確認しましたが、「おきにいり」には入りませんでした。 諦めて、釣り道具店に行きました。いくつか、ナイフがあったのを思い出したのです。 「どの色がいいかなぁ。」 ようやく、お気に入りをみつけたようです。 それは、スパイダルコの小さいナイフでしたが、ロックの機構がきちんとしています。 「山で落としてもみつけやすい、赤がいいよ。」 誕生日のプレゼントが決まりました。 「ひとつ、約束しておこう。誰かにそのナイフを見せないこと!」 タクミは、うん!と、うなずきました。 * 第四のぢぃさんの腰には、いつも、ナタがあります。 タクミは、「みせてね。」と言うと、爪に刃をあてたり、刃を空にかざしたり、していました。 伐採した木の始末をするときは、いつも後ろについて歩きます。 「ナタ欲しいかぁ。」 うん。。と、タクミは言いました。 「欲しかったら、やるぞ。屋根裏にころがってたからよぉ。」 玉鋼を二枚叩いたナタでした。 玉鋼の形がそのまま残っています。研ぎ出しもしやすい柔らかい鋼です。 こんな上等なナタは、めったに手に入るものではありません。 「鞘もあるぞー」 * 古い金物屋の店先で、ガタガタになったナタの柄を交換しようとして、捜しました。 「なぁに、さがしてんのぉ~」 店のおばさんは、訪ねました。 ナタを差し出して、交換したいんですけど・・・と言うと 「あ、ナダノエね。ナダノエ、ナダノエ。。」 その店の商品名は「ナタの柄」ではなく、「ナダノエ」でした。(笑) * 私は、欅の木刀を傍らに置いて、目を閉じて呼吸を整えます。 右足を出すと同時に払ってみます。 迷いは切れません。 もう一度、正座して、払って、上段から面。 小手を防いで、突き。 ダメだ。。 * 「米沢から来たのかよ~」 タクミの腰にあるナタを見ると、里山の人たちは、はじめに挨拶します。 ナタの形、鞘の形は米沢独特のものだと逆に教えられました。 つい数十年前まで、大きな人の交流があったのだと知りました。 「米沢ではねぇ~がよぉ~」 人と話しをするのが苦手なタクミも次第に話をするようになりました。 ある日、タクミは私に言いました。 「鉄は、どうして作るんだろ。」 「作ってみるか。砂鉄から。」 私は、隠れキリシタンの村を思い出しました。 その村の名は「筆甫」と書いて「ヒッポ」と読みます。 村の人たちは、筆の村だと信じているようですが、私は直感しました。 隠れキリシタンのマリア観音の村。宮城県南部の山奥です。 ラテン語で読めば「馬」「正直な人」現代語訳の聖書では「フイリッポ」。 「もういちど、いってみよう。」 その里山は江戸時代後期まではマリア観音を礼拝していた「製鉄の村」だったのです。 前回訪れた時には、家計図を見せられて驚きました。 「こんなの、アリかよ。。」 スパイダルコの赤い小さいナイフはこんな形です。 [993143] 鉄を自分で作ってみたい。そこから旅が始まりました。子連れ狼は、人気blogランキングへ。。クリックお願いします。< |