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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2022年03月13日
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『シーボルト 江戸参府紀行』

  二月二一日 〔旧一月十五日〕 

 

初版第1刷発行 1979年7月15

  訳者 斎藤 信 さいとう まこと

 

  東洋文庫87

  発行者 下中邦彦

  株式会社平凡社

  

  斎藤 信氏略歴

  明治44年東京都生。

  東京大学文学郁枝文科卒(昭12)。

  名古屋市立大学名誉教授。

  現職(著 当時) 

  名古屋保健衛生大学教授。蘭学資料研究会会員。

  専攻 ドイツ語。オランダ語発達史。

  主著『DEUTSCH FUR STUDENTEN』。

  主論文「稲村三伯研究」など。

 

  一部加筆 山梨県歴史文学館

 

二月二一日 〔旧一月十五日〕 

 黒崎・石炭・茶屋原平松

 

木屋瀬では人々は石炭を運んでいたが、それに熱を加えるためである。

直方川の右岸に連なる炭焼山で石炭が出るということを聞いた。われわれは昨夜何カ所かで煙の立ちのぼるのを見ていた。絶え間なく降り続く雨にしいられて、私は今日余儀なく駕籠の中である。

 茶屋原からは海が見え、好天ならば日本〔本州のことをいう〕の長門国の高地が見える。道はここから石坂を通って山にかかり、黒崎(Kurosaki)に通じ、そこで洞鳥を望むすばらしい景色がひらける。この島は元来は高い岬であるが、東は深海という深い入江で、西は上述した芦屋川の一支流が流れていて陸地から切り離されている。

筑前と豊前の国境にある清水村(きよみず)で豊前藩の数人の

武士の出迎えを受け、毎度のようにわれわれを案内してくれた。

境界線は街道の両側に立っているふたつの石で示されている。もう少し進んで平松(Haramats)に着いた。小倉の郭外の町で大部分は藩主の家来が住んでいた。家々は本当に好ましい外観をしていた。小さいけれども例外なく上品でこぎれいな庭があり、竹やキヅタやイトスギの生垣で囲まれていた。

 どっしりとした門をくぐると小倉の町にはいるが、町は濠と銃眼のある城壁で郭外と分けられている。門の内側には番人が立ち武器や旗指し物を飾り、開いている番所には指揮官が身動きひとつせずに腰かけていた。通りには見物人がいっぱいだった。大きな秩序と行儀のよい態度、それに外国人使節の到着というよりはむしろ葬式に似つかわしいような静けさが漂っていた。われわれは大きな木

の橋を渡って広場に進み、そこからほど遠からぬ宿舎に着くと、主人や何人かのほかの連中がたいへん丁重に出迎えていた。

 着くとすぐに藩侯の使者の来訪が告げられ、わが公使はまだ迎えに出ることができなかったので、ビュルガー君と私が訪問者を出迎える光栄に浴した。

しかし高官を期待していたのに、来たのは城の門番で、そのうえ実に愚直な人間がわれわれの眼前にいたのをみて、すっかりあてがはずれた気持であった。その男はわれわれに、殿様は目下、国におられず江戸に行っておられるという報告のほかには、何ひとつ重要なことを伝えることができなかった。それにもかかわらず通詞たちは彼をもてなして、種々のリキュールやブドウ酒を飲ませた。彼はこの酒を特別うまいと感じ、われわれの生活様式に対しては感激といってよいほどの賞賛を惜しまなかった。彼は去るにのぞんで、オランダ人の寛大さを藩中の者に知らせると、われわれに約した。

わが公使は前例に従って長い陶土製のパイプと少量のタバコを贈ったが、彼はたいへん満足して帰って行った。






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最終更新日  2022年03月13日 10時15分48秒
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