2022/10/27(木)09:55
加藤訓子さんのマリンバに打ちのめされる(LinnのSACD/CD)
良く、バックロードホーン・スピーカーというと、
パーカッションには最適のデカい音が出るという固定概念があって、
確かに間違いではないのだが、こういう一方的な思い込みは何とも残念である。
そうは言っても、高能率でハイトランジェントでDレンジが広大なバックロードホーンは、
確かにパーカッションのようにパルシブな音源には好適であるのは間違いなく、
個人的にも音楽の根源というか、ストレートに心に響く打楽器は大好きだ。
その昔、エラートのシルヴィオ・ガルダによるイアニス・クセナキスのプサファに衝撃を受け、
シェフィールドのドラムや、日本の鼓童や鬼太鼓座のような和太鼓とかに繋がっていった。
最近の録音では、加藤訓子(かとう・くにこ)さんのマリンバがお気に入り。
加藤訓子さんは、ロッテルダム音楽院を主席で卒業して、
数々の受賞歴もあるアメリカを拠点に活躍している国際人。
加藤さんを初めて聞いたのがライヒのアルバムだったけど、
このSACD/CDを作っているレーベルのLinnは、
オーディオメーカーのLinnが親会社というだけあって好録音が多いのが特徴だ。
最近のお気に入りで昨年発売のバッハは、
曲名は知らなくても馴染み易い曲ばかりで最初に買うには良いと思う。
マリンバはピアノと同じ鍵盤打楽器と呼ばれるけど、
鍵盤からの力を複雑な機構で弦を叩き、響板を響かせて音を出しているピアノと違い、
マレットと呼ばれるバチで直接人間が木の音板を叩き、
その下にあるパイプを共鳴させるシンプルな楽器で木琴の一種だ。
起源はアフリカにあると言われて、
これは木の板の下にヒョウタンをぶら下げた楽器である。
現在の形になったのは19世紀後半のグアテマラらしい。
似たような楽器にシロフォンというのがあるけど、
いわゆる木琴の音と言ったらこっちの方が馴染みがあると思う。
このCDは、マリンバの存在が明確で、
叩かれた鍵盤の位置もちゃんと分かるような好録音。
全体的にオンマイクで、マリンバ特有の芯のある柔らかくて厚みのある音と、
徐々に消えて行く余韻が重なって見事な音楽の空間を作り出す。
特に凄いのが低域の圧倒的なパワーで、
何というか電信柱位の木の丸太をぶら下げておいて、
それを木のバットでぶん殴ったような音にゾクっとくる。
何せ、低音部の音が出る度に部屋の何かが共鳴して、
そこかしこからビーン、ビーンと聞こえ出してギョッとするのである。
鍵盤を叩いた瞬間の音と、消えて行く余韻の対比の再現は難しいと思う。
何より、エネルギーと厚みがあってガツンと来る低音は、
最近の低能率マルチウェイでは難しいだろうし、
見事な音場となるとヘッドホンでは再現の難しい音源。
加藤さんのCDは好録音のものが多い。
そこは流石にLINNレーベルというべきか。どれもSACDとCDのハイブリッド盤だ。
ライヒのジャケット写真を見ると、加藤さんのアスリートぶりが分かる。
あの繊細かつ豪放なマリンバの音の秘密がこの筋肉なのである。