テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:小説
中学時代のエッセイ小説
******** 彼の名前は「ワンちゃん」と言った。 顔とか仕草とかじゃなく名前からついた。 中学での席はなぜか「班」の形と決まっていた。 私と森狩野という男子と友達、矢衣子と「ワンちゃん」は同じ班になった。 お互い向き合って座った。 授業なんてろくに聞かずに班で遊んだ。 「ワンちゃん」は漆黒のストレートヘアで、どちらかというとあまり喋らない子だった。 授業中、彼はドクターグリップをくるくる回して黒板を睨んでいた。 そのくるくるがなんとも珍しく感じて矢衣子と一緒に聞いた。 「それどうやるん?」 最初は綺麗にくるくる回らなかった。 でも毎日靴を履くと足の形にぴったりなるようにしだいに、指がシャーペンになじんで回った。 くるくる回るなんてのはとんだトリックで、本当はシャーペンは回ってなかった。 指で交互に弾くようにするとシャーペンはいかにも回っているように見えるのだ。 私の手の中でシャーペンが回る。 回っているように見える。 でも「ワンちゃん」は超一流で、速さは誰も敵わなかった。 「ワンちゃん」は遊戯王カードのコレクターだった。 市販のファイルに一枚一枚丁寧に収まっていた。 キンキラのプラチナカードはページをめくる度に財宝のように見えた。 みんなは頭を寄せ合ってそれを見た。 彼は細々と説明をしたけど、誰も聞いてなかった。 ただ、有ればいいのだ。 なにか時間の空白を埋めるものがあれば。 ある日、「ワンちゃん」の顔が真っ青だった。 弁当も広げないで、顔を突っ伏している。 班員は問いただした。 彼は噛み締めるように一言一言言った。 カードがなくなった、と。 班員は顔を見合わせた。 不良がはびこるこの学校でカードがなくなった。 「ワンちゃん」の大切なカードがなくなった。 二度とそれが戻ってこないことは百も承知だった。 探すフリをしてあとは彼を慰めた。 ただ、昼休みの間の出来事。 長い髪が彼の顔を少しだけ隠していた。 彼の眼には赤い色が浮かんでいた。 肩を震わせて、必死に我慢して。 いすにじっと座って身動きしないで。 私はそれを遠くからずっと眺めていた。 過去の記憶がだぶった。 私の過去と。 昔の自分と照らし合わせて。 彼と私は同じ。 私は彼を楽しそうに遠くから見た。 ****** 後日訂正して「Novel」にUPする予定。 短編の練習。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年10月30日 18時19分59秒
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