テーマ:小説日記(233)
カテゴリ:小説
短編レッツチャレーーンジ!
****** 祐平はちょっと身震いした。 安いビニール傘の上にぽつんぽつんと雨雫が伝っている。 今朝登校中も降っていた雨は夕方になっても止むことなく、辺りの気温を一段と下げていた。 踏み込んだ足先で水溜りが弧を描いた。 その弧の行く先を見届けてふと顔を上げると、小さな男の子がこれまた小さな傘をさして、不思議そうにこちらを見つめていた。 呆然と沈黙が漂う中、子供は突然にっこり笑った。 近くの幼稚園帰りかと思える姿をしている。 でも黄色い鞄は特別提げてない。 「ボウズ、何か用か?」 「傘が壊れたの」 身動きせず、彼はすらっと言った。 「へ?」 壊れた様子が微塵も見えない傘を眺めて俺は変な言葉を出した。 「…そういやママは?」 構うのはやめておこうと別の話題をひねり出す。 「おにいちゃんの傘貸してよ」 完全に無視された。 「その傘で十分だろ。壊れてないみたいだし。これはデカすぎるよ」 そう言って俺は傘をひょいと持ち上げて見せた。 「貸して」 必要最低限の強気の言葉を発する子供は凛とした瞳を携えている。 俺は溜息をついて、膝を折り彼と目線を合わせた。 暗黙の睨めっこのもと、俺は手を突き出した。 「でかくて持てないよ」 俺はもう一度だけ警告して彼に手渡した。 子供は嬉しそうに受け取ると、小さな小さな傘を俺に突き出した。 予想外の展開に思わず受け取ってしまった俺をしかと目で確認した子供は声を出して笑った。 たぁぁと走り去っていく。 大き目の傘によろよろしながら。 「お、おい!」 「その傘閉まらなくなっちゃって困ってたんだ!」 子供は俺に聞こえるように言ったかと思うと角の先に走り消えた。 雨を受けて黒光りする道路に俺だけが取り残された。 俺はしばらく何が起こったのか理解するのに時間を要した。 小さな傘が捕らえられなくなった雨粒を肩に落とす。 しっとりしめる冷たさを肩にだけ感じながら、俺ははっとして子供が消えた角を追いかけた。 はるか先でさっきの子供と母親らしきひとが手をつないで歩いている。 子供の大きな傘が右左に揺れる。 母親がそっと子供から傘をとって、ぱたんと閉めたのが見えた。 俺は幸せそうな親子をじっと見ていた。 まっすぐな道を親子はゆっくり歩いていく。 ずっと先まで。 少しまぶしくなってきたなと感じて俺は空を見上げた。 雲が晴れて青が見えた。 俺は力が抜けて小さな傘を下ろした。 肩に落ちる水はもうどこにもない。 小さな傘に残った雫が静かにビニールを滑って地面を濡らした。 **** 小さな男の子と男子高校生の組み合わせが私は好きなようです。(謎)以上、咄嗟の思いつき。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年11月01日 00時16分25秒
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