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カテゴリ:判例、事件
タレントの向井亜紀氏の出生届受理問題について。
向井氏が代理母によって出産した子供について、向井氏と夫の高田延彦氏(元プロレスラー・格闘家)との間の実の子供であると出生届を提出したところ、受理されなかったというので裁判になっている件です。 身近な問題であるはずなのに、「許可抗告」っていう見慣れない用語がよく出てきます。 で、今回、その許可抗告が認められて今後最高裁で争われると今朝の新聞にありました。 この「許可抗告」とは何かということについて。 まず、戸籍に関することで役所の扱いに不服がある者は、家庭裁判所に不服の申立てができると戸籍法に定めてある。向井氏は、出生届を東京都品川区に受理してもらえなかったことを不服として、東京家裁に訴えた。 東京家裁は「代理母(他人のお腹)を借りて子を授かった場合は自分の子供とは言えない」ということで向井氏の申立てを却下。 これに不服な向井氏は、さらに東京高裁に「抗告」しました。すると東京高裁は「実子と認めていいから出生届を受理してやんなさい」と品川区に命じました。 家裁と高裁で判断が分かれたわけです。高裁で負けた品川区はさらに最高裁に訴えることができるかというと、当然にはできない。 日本の裁判は三審制だからもう1回できるのではと思う方もおられましょうけど、家庭裁判所の扱う「家事事件」は一回だけ高裁に抗告ができるのみ、ということになっています(民事訴訟法とか家事審判法とか裁判所法に定めがある)。 しかし、例外として、法的に重要な問題が含まれている案件であれば、その高裁の許可があれば、最高裁にもう一度抗告できる、と定めがあり(民事訴訟法)、これを許可抗告といいます。 高裁の判断に不服を申し立ててよいとの許可を、当の高裁が与えるわけですから妙な気もしますがそういう制度です。 今回、品川区の申立てを受けて、東京高裁が、重要問題だから最高裁でやってもらってよかろう、ということで抗告を許可して、事件は最高裁へ、という運びになりました。 向井氏の気持ちを思えば、「品川区は受理してやりゃあいいじゃねえか、なんでまた抗告なんかしやがんでぇ」と(品川区だから江戸っ子ふうに)思う人もいるでしょうが、これはやむをえないでしょう。 仮に品川区がここで出生届を受理したとして、将来、代理母による出産は実子と認めない、という判例や法律ができてしまったりすると、いったん認められた親子関係はどうなるのかという、極めて不安定な要素を残すからです。 代理母によって出産した子との間に実の親子関係が成立するかというと、日本では確定した解釈はない。民法ができた戦後すぐのころ(民法そのものは明治時代に出来たが、親子関係に関する部分は戦後に大改正されている)は、代理母で出産するなんて事態を想定していないからです。 東京家裁は、実の子とは当然、母親自身のお腹から生まれた子に限るんだ、民法にそれが書いてないのは、当たり前のことだからだ、という解釈をしたわけです。民法ができたころは確かにその通りだったでしょう。 しかし時代が移り変わって、代理母という技術が可能となって、本来はそんな場合どうするかを法律で定めるのが望ましいのだけど、国会ではまだそこまで議論がされていない。 では現行の民法の解釈として、代理母の出産でも実子と認めるべきか、その統一的解釈を最高裁において求めるべきだと思われます。 ということで、最高裁の判断が非常に注目されます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/10/28 11:10:43 AM
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