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カテゴリ:判例、事件
「集団自決訴訟」の判決。
日本軍の元隊長が、「戦争の際に沖縄で住民へ集団自決を命じた」と大江健三郎氏の著書に書かれたことを理由に、その著書の出版差止めや損害賠償を求めた裁判で、大阪地裁は原告(元隊長)の請求を棄却。 これは扱われた事件が特殊なだけに判決を読み誤りがちですが、裁判所が「元隊長が集団自決を命じたのだ」と判断したのかというと、そうではない。 原告である元隊長は、「集団自決を命じていないのに、命じたと書かれたことが名誉毀損にあたる」として、損害賠償などを求めていた。大江氏は損害賠償に応じないといけないのかどうか、それが争われていたのです。 たとえば、「あいつは人殺しだ」などと発言して人の名誉を傷つけると、それにより相手に与えた精神的苦痛につき損害賠償しないといけない(また、刑法上も名誉毀損罪が成立する。刑法230条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)。 しかし、その発言が「1・公共の利害にかかわり、2・公益目的で、3・真実である」という要件を満たせば、仮に名誉を毀損した発言をしても正当化され、発言した人には賠償責任が発生しないし、犯罪にもならない。 そうでないと、例えば政治家や役人の汚職を報道することすらできなくなるからです。 上記の1・2は飛ばして3について以下触れますが、この3は、「真実だ」と証明できなくても、「真実だと信じる相当の理由」(つまり「ちゃんとした根拠」)があればよいとされている。 これを前提に、裁判所の判断をかいつまんで言うと以下のとおりです。 大江氏の著書は、原告である元隊長が集団自決を命じたかのように書いており、原告の名誉を毀損している。 では、元隊長が集団自決を命じたのは真実かというと、そこまでは認定できない。 しかし、大江氏はそれなりの文献の調査や取材を経て書いているので、真実だと信じたちゃんとした根拠はある。 だから、賠償請求までは認められない、ということです。 集団自決命令が真実だったのか否か、今となってはもはや解明のしようがないのかも知れません。裁判所としても、そこまで踏み込んで判断を下す能力も権限もない。 あたかも戦争犯罪人のように書かれた原告の気持ちはわかりますが、裁判所の判断としてはこれで仕方ないかと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/03/30 11:20:37 AM
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