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カテゴリ:判例、事件
昨日の朝刊各紙から。
JR宝塚線の脱線事故に関して、JR西日本の社長ら幹部何人かが「書類送検」されたとの記事。 これは何を意味し、今後この事件はどうなるのか。 「書類送検」とは、文字のとおり、警察が作った書類が検察庁に送られることを意味します。 このとき、容疑者(被疑者)が逮捕されていれば、容疑者の体(身柄)と一緒に検察庁に送る。これを「身柄送検」と言ったりする。 ですから書類送検というのは、容疑者が逮捕されていないことを意味します。 いずれにせよ警察は、受け持った事件は、原則としてすべて検察庁に送らないといけない。 その上で、起訴して刑事裁判に持ち込むかどうかは検事が決めることになる。 検事に事件が送られることなく、「警察でお叱りを受けて終わり」ということもありますが、これは子供の万引きなんかの微罪に限られるでしょう(もちろん万引きも立派な犯罪ですが)。 ですから、送検されるというのは、まだその人の処分が決まったことを意味しない。 弁護士として刑事事件に関わることもある者の感覚としては、「まだまだ入り口」の段階といえます。 報道によると、警察側は検察官に対し「処分相当」(起訴すべきだ)という意見を書いたとか。 もっとも、警察はたいてい、訴追側の最も先鋒的な立場にある者として、厳しいめの意見を書くことが多いです(そもそも「処分は相当でない」と警察が考えるのなら、送検しないでしょう)。 送検を受けた検事が、「警察はああいうけど、この程度の証拠で有罪判決に持ち込むのは無理だ」と判断すれば、起訴されずに終わることも珍しくない。 では本件についてはどうか。 書類送検されたJR西日本の社長は、事故当時の鉄道本部長として、事故現場の線路を管理する立場にあったらしい。 とはいえ、運転手が居眠りして減速せずカーブに突っ込んだことの責任まで負わせることができるかどうかは、かなり微妙な問題ではあると思います。 さらに、事故当時の社長の書類送検は見送られたらしい。 事故を起こしてトップが断罪されないのは納得がいかない、という感情もありましょうが、当時の社長の立件はなおのこと難しいでしょう。 似たような話を度々書いていますが、この脱線事故に対して、JR西日本が組織(会社)として死傷者に対する賠償責任を果たすべきなのは当然のことです。これは民事責任です(民法715条、使用者責任)。 しかし、組織のトップが「個人として」刑事責任を負わされるべきか否かというのは全く別問題であって、従業員が居眠りで事故を起こすと社長まで懲役刑をくらうというのなら、人を雇って仕事をするなんて怖くてできなくなる。 ということで、当時の社長が書類送検されなかったのは妥当だと思います。書類送検された人については、検察による冷静で厳密な判断により、起訴すべきか否かが決められることになるでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/09/10 08:46:59 AM
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