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カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』 ●第15回 夢の夢 第912回 2007年4月12日 音楽にいろいろなメロディーがあるように、マンガにもいろいろな描き方があった。 手塚治虫は、大人マンガやコママンガを描くときの絵のタッチ(マンガの描き方)を、単純な線で用いて描いていた。それは当時の横山隆一や小島功などのコママンガの描き方の手法だった。 井上は手塚を見習って、この大人マンガの手法で描くことにした。 ペンはカブラペンとスクールペンを使うことにした。背景やベタ(黒く塗りつぶす)も、できるだけ少なくしようと考えた。 それから登場人物は「アングラくん」に決めていた。 自分の創作したオリジナルキャラクターは数点しかなかったからだ。その中でもインパクトがあったのが「アングラくん」だった。 ザ・フォーククルセーダーズというフォークグループが唄って、大ヒットした「帰ってきたヨッパライ」をモデルに、創造したキャラクターがこの「アングラくん」だった。クラスの仲間からもこの「アングラくん」は評判がよかった。 さて、問題は四コママンガの中身だった。 二階の自分の部屋で何回もアイデアを考えたが、さっぱりアイデアは浮んでこない。 四コママンガの基本は起・承・転・結をヒトコマ、ヒトコマに充てはめていかなければならない。 美智江から与えられたテーマは「夢の夢」であった。 井上は置き机から上半身をゴロンと倒れて、両手を枕にして仰向けになり天井を見つめた。 「夢の夢かぁ……ちゃんとした四コママンガを描けるようになるのも夢の夢だし……アイデアなんて、そうわいてこない……ああ、美智江ちゃんはどうしてオレに難問を突きつけてくるんだろう」 井上はひとり言を言いながら、ため息をついた。そして体を右横にした。その瞬間に柱に括り付けてある「手紙入れ」に目が入った。 手紙入れの隙間から「手塚治虫」と書いたハガキが目に留まった。 井上は体を起して、そのハガキを手に取った。 お手紙ありがとうございました。 マンガを描くことはいいのですが、やはり学校の勉強が大切です。 それからマンガばかり読んではいけません。 読書や映画を観ることも大切です。 どうぞこれからも頑張ってください。 それから上京する時は事前に連絡をください。 楽しみにしています。 手塚治虫 これは4月に届いたばかりの、井上に宛てた手塚治虫直々のハガキだった。 「マンガを描くことはいいのですが、やはり学校の勉強が大切です。 それからマンガばかり読んではいけません。 読書や映画を観ることも大切です」 ポツンと声を出して読んだ。 そうだよな、マンガを読んでもアイデアなんてわかないよなあ。 あの原子力空母エンタープライズが佐世保に入港した時は、オレは怒って入港反対のマンガを壁新聞に描いた。だからみんながビックリしたし、学校側は政治問題だと騒いだんだ。 あのマンガには作者のつまりオレの怒りがテーマとしてあった。 マンガには伝えたいテーマや作者の感情がなかったらダメなんだ。 この四コママンガにも、読む人に伝えたいテーマや感情を描いてみよう、 そう、井上は次第に考えるようになっていった。 『美智江からは「夢の夢」というテーマをもらったのだから、オレにとっての「夢の夢」はなにかを考えてみよう』 井上にとっての「夢の夢」はたくさんあった。 体が弱く貧弱だった。 あまり痩せていたので家族からも豆もやしと言われていた。 そうかオレはカッコウが悪いんだ、だから女の子からはもてない。 病気がちで勉強にはついていけないから、テストの成績が悪い。特に英語は赤点ギリギリで最悪だ。 これを四コマに分けてマンガにすればいいんだ。 井上は早速、四つの枠に下書きを始めた。 2007年 2月10日 土曜 記 2007年 2月11日 日曜 記 2007年 2月12日 月曜 記 (文中の敬称を略させていただきました) ~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第15回 夢の夢 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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