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カテゴリ:手塚治虫とマンガ同人会
~山形マンガ少年~ 第三部 『熱い夏の日』 ●第29回 マンガ家 真崎守 第952回 2007年7月23日 村上彰司は電話の受話器を握って考えた。 いや、峠あかねの発言というより、マンガ家真崎守としての発言だったんではないだろうかと、村上は昨日の真崎守との対面を思い出した。 COM編集長の石井文男に連れられた村上は、田んぼや畑の中に作られた簡素な住宅地の間をとぼとぼと歩いた。 町の中には樹木が所々にあり、ミ~ン、ミ~ンと元気にセミが鳴いていた。 ミンミンゼミの鳴き声が東京で聞けるとは夢にも思わなかった。 「東京都北多摩郡久留米浅間町一丁目とはずいぶんな田舎町だなあ」 と、村上はつぶやいた。 「エッ、暑いって? そうだね。今年の夏はやけに暑いね」 と、村上の前を歩いていた石井が応えるように言った。 それは木造のひっそりとした住宅だった。 東京の住宅らしく庭にも家にも無駄がない。 すべてコンパクトでギリギリに建ててある。 雪国の山形では考えられない。 それだけに村上の目にはやけに上品にも見えるのだった。 石井が玄関をガラガラと開け、 「こんにちは!コムのイシ~イです!!」 と、大きな声で奥に向かって呼んだ。 しばらくすると、ホットパンツにTシャツ姿の細い女性が出てきた。 どうぞ、と、低い声で石井らを家の中に手招きした。 その女性はテレビで見るようなタレントのような美しさなので村上は呆然とした。 「真崎さんの奥さんだよ」 と、石井は村上に言った。 応接室は六畳あるかないかの狭いところだった。 石井と並んで椅子に腰掛けていると、髪を短くしてメガネをかけた無精ひげの三十歳位の男が入ってきた。 「やあ、石井さん!?」 それがマンガ家真崎守だった。 石井は真崎に村上を紹介した。 そして「山形まんが展」の成功や「ぐらこん山形支部」の結成に至るまでの経過を丁寧に説明をした。 その間、真崎は黙ってタバコのホープを吸っていた。 村上は流れる汗を時々ハンカチで拭きながら、石井の説明にうなずいていた。 真崎は、おおっと言って立ち上がり、傍にあった扇風機のスイッチを入れた。 「真崎さん、お願いがあるんだ。彼らの顧問になってくれないか?」 と、石井が切り出した。 「ボクが?」 と、驚いた表情で真崎は石井に問いただした。 村上もびっくりした。 そうだったのか、ボクを真崎先生のところに連れてきたのは、ぐらこん山形の顧問就任をお願いするためだったのか。 村上は心の中でうなづき、石井の計らいに感謝した。 「ぐらこん全体にも顧問なんていないし、しかも、この山形支部という県レベルでのぐらこん支部結成だって異例なのに?」 「それはそうだけどね。これには手塚治虫先生のの思惑もあってのことなんだけど……」 と、石井が言いかけると、真崎は、 「ようやくCOMに石森さんが帰ってきて『サイボーグ009』を描いている。 ダンさん(永島慎二)も糖尿病でも掲載をしたじゃないか。 もう、オーナー雑誌でのゴタゴタはなしにしないとね。 今度はボクが巻き込まれるのなら断るよ」 「そんなことはないから。真崎さんには迷惑はかけないし、虫プロダクションのアニメ仲間の北野英明さんだってCOMに描いてもらっている。ぼくが責任を持つからね」 石井がそう言って手塚をカバーしていた。 村上はどんな事情かわからないが、手塚治虫先生とCOMに描いている他のマンガ家の間に何かがあったことは察しがつく会話だった。 「手塚先生は世間を気にし過ぎると思うよ。 マンガが文部省推薦でもしてくれればいいと考えているのか、と言いたくなるね。 例のジョージ(秋山)さんの『アシュラ』とか、手塚先生の『やけっぱちのマリア』が有害図書指定をうけたからって、どうだっていうの!? マンガは時代を先取りするものであり、愛がある内容であれば表現は自由であるべきだろう?ボクはそう思っている。 マンガ界全体がもっとプライドを持っていかなきゃ、世間に押しつぶされちゃうよ。 キミたちがプライドを持ってぐらこんをやるんだったら、顧問を引き受けよう」 真崎守はプライドを持っている。マンガ家としてすごいプライドだ。 村上はそう感じ、その熱い迫力に圧倒された。 「お願いします!」 村上はその一言だけを言って頭を下げた。 2007年 5月18日 金曜 記 イラスト・たかはし よしひで (文中の敬称を略させていただきました) ~山形マンガ少年~ 第三部『熱い夏の日』 ●第29回 マンガ家 真崎守 「山形マンガ少年」まとめてご覧いただけます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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