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misty247

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2005.02.24
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カテゴリ:古今東西のお語
 ある唄の一部分が地方によって若干変わることがよくあるように、ヨーロッパ諸各国には、類似する民話が多数存在するそうです。大筋が似ているものを指してのことですが、それ以前に基本パターンが似ているものが多いです。よくあるのが、──王様が何かで困って、これを解決した者は娘の婿とする、と言い出す。挑戦者が数名、真正面から立ち向かうが敢えなく玉砕。するとそこへ若者がふらりと登場して「私なら簡単です」と公言。どうするのかと見ていれば、普通なら押すところを引くような調子で難題をすらすらと解決して、めでたくお姫様をゲット──、というようなお話です。
 そんな機転の利く王子が王様になれば、もう王様が困る話は無くなりそうなものを、いつまでも続いているということは、勝手に親が賞品扱いにした婚姻はほどなく破局を迎えたのでしょうか。(推測し過ぎ)
 今回は、イタリアの民話より上の基本パターンとは少し違う「満ち足りた男のシャツ」を、以下にあらすじで紹介します。定本は『岩波文庫イタリア民話集』です。

∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞

 ある王様に一粒種の王子がいた。王は目一杯の愛情を注いだが、王子はなぜかいつも満たされない表情を浮かべていた。遠くをぼんやりと見ては日毎に憂いを募らせて、頬から輝きが失われていくのが見て取れた。王様は心配のあまり王子に問いかけた。
 「いったいどうしたというのだ?」
 「わかりません。お父様。僕にもわからないのです」
 好きな娘がいるなら嫁に貰ってやろう、どんな望みでも叶えてやろうと王様が優しくしても、王子の顔は曇ったままだった。
 王様は世界中から最高の学者達を呼び集めて、王子の憂鬱の解消法を探らせた。すると、学者達はこう結論した。
 「陛下、星座の動きを調べて考え辿りついた所、ある男を探し出せば良いようです。その男とは、心が満ち足りている男です。そして、王子にその男とシャツを交換させるのです。そうすれば王子は快復します」
 その日のうちに、王様は世界中に使節を派遣して、心の満ち足りた男を探させた。

 一人の神父が連れてこられた。王様が問うた。
 「お前の心は満ち足りているのか?」
 「はい、さようです。陛下!」
 「よろしい。それでは、大司教にしてやろうか?」
 「ああ、願ってもないことです。陛下!」
 「さがれさがれ! さっさと出て行け! いまよりもよくなりたがるような男は、満ち足りた男ではない」
 使節は次に隣の国の王様に目をつけた。その王様には、優しく美しいお妃がいて子宝に恵まれていた。そして、その国は豊かで強く平和であった。使節はシャツを乞うために伺いをたてた。
 「いかにも、いかにも。わたしに欠けているものは何一つない。しかし、ただ一つ残念なのは、こうしてすべて得ているのに、すべてを残して死なねばならないことだ。それを思うと心は千々に乱れて夜も眠れない」
 聞いているうちに、使節は引き返したほうがよさそうだと思った。

 探す男はなかなか見つからなかった。
 王様が気晴らしに猟をしているときのこと、野原の中で歌う男の声を聞いた。
 『あのような声で歌うのは、さだめし心の満ち足りた者であろう』
 歌声に導かれていくと、葡萄畑の中で声の主の若者に出会った。
 「これは陛下。よいお日和です。早朝からお出掛けですか」
 「しあわせそうだな、おまえは。どうだ、いっしょに都へ行かないか? 厚くもてなしてやるぞ」
 「いえ、とんでもございません。教皇さまとだって身分を換えたくありません」
 「それはまた何故だ? まだ若い身でありながら……」
 「わたしは今のままで結構でございます。満足しています」
 王様は心の中で叫んだ。
 『とうとう見つけたぞ、満ち足りた男を!』
 「若者よ、わたしの願いを聞いてくれないか」
 「わたしに出来ることでしたら何でも喜んで、陛下」
 王様は喜びのあまり、天にも昇らん気持ちになった。
 「わたしの息子が死にそうなのだ。お前だけがそれを救える……」
 王様は話し始めると、早くも若者の上着のボタンに手をかけた。

 が、突然、王様の手は止まり、力なく両腕は垂れた。若者はシャツを着ていなかったのである。

∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞ * ∞

 オチが取って付けたような感じですが、なかなか面白いお話だと思います。探してもいない人のお話で思い出すのは、
──
 釈迦のところに、子を失った母がやってきて、生き返らせてくださいと哀願した。釈迦は、今まで死人を出したことのない家から芥子の実をもらってきなさい、と母に伝えた。母は死人を出したことのない家を探し歩いた。しかし、そんな家は一件も見つからなかった。そのうち母は、悲しみに襲われているのは自分だけではないことを悟った。
──
というお話です。

 ところで、「満ち足りた男」というのは望ましいことなんでしょうかね。常にガツガツしているのは、欲に限度がなさそうで疲れそうですが、なんの野心もなくのほほんとしてるのも魅力に欠けそうです。求める方も求められる方も、この辺りのバランス感覚は難しいものがありそうです。





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Last updated  2005.02.25 17:45:44
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