高田 郁 「ふるさと銀河線」
両親を喪って兄とふたり、道東の小さな町で暮らす少女、演劇の才能を認められ、周囲の期待を集めるが、彼女の心はふるさとへの愛と、夢への思いの間で揺れ動いていた(表題作)。苦難のなかで真の生き方を追い求める人々の姿を、美しい列車の風景を織り込みながら描いた珠玉(しゅぎょく)の短編集。※珠玉(しゅぎょく)とは・・・「1.真珠と宝石。 2.美しいもの,すぐれたもの,尊いもののたとえ。 特に芸術作品にいうことが多い。」・・・・・・・・・・・・・・・1.お弁当ふたつ2.車窓家族3.ムシヤシナイ4.ふるさと銀河線5.返信6.雨を聴く午後7.あなたへの伝言8.晩夏光9.幸福がすぎたら・・・・・・・・・・・・・・・3.ムシヤシナイ「虫養い、いう言葉が大阪にはあるんや」「ムシヤシナイ?」「軽うに何ぞ食べて、腹の虫を宥め(なだめ)とく、いう意味や」「ふーん」「帰ればご飯が待ってる。時間さえあれば、ゆっくり食事が出来る。懐に余裕があったら、派手なご馳走も食べられる。でも今は、そういうわけにいかん。せやから、取り敢えず駅蕎麦で虫養いして、力を補う・・・そういう虫養いを、ジイちゃんは大事に思うんや」・・・・・・・・・・・・・・・9つ全て家族が原点の優しくて切ない物語です。1.お弁当ふたつリストラされた事を家族に言えず、昔、妻とデートした場所へ毎日妻が作ってくれるお弁当を持って、列車に乗る夫。事情を知った妻は、二人分のお弁当を作り、夫の後を気付かないよう追いかけ、列車に乗り、夫がお弁当を広げる頃にそっとそばに行き、一緒にお弁当を食べます。「どど、どうして」辛うじてそのひと言を絞り出した夫に、佐和は穏やかな笑顔を向ける。夫の前の席へ座ると、トートバッグから、お弁当と魔法瓶とを取り出して、夫に示した。「一緒に食べたくて」これからのことを話し合う前に。私も働くから、との決意を伝える前に・・・。・・・・・・・・・・・・・・・7.あなたへの伝言アルコール依存症の為に夫と別居し、一人お弁当屋さんで仕事をしながら乗り越えようと一日一日を頑張る妻。朝、洗濯をした真っ白のソックスをベランダに干す。通勤電車から見えるソックスで昨日一日飲まずに頑張った事が分かる夫。同じ依存症の友人が、ある日飲酒してしまう・・・家族からの連絡で現場を観た妻。破壊され尽くした室内、泣いている家族、吐しゃ物でひどい臭い、浮腫んで醜く変貌した友人・・・友人の夫から・・・「しっかり見ておきなさい。アルコールが本人や家族をどれほど痛めつけるか。そして、お願いだ・・・頼むから、もうこんな思いをあなたの家族にはさせないでくれ」・・・・・・・・・・・・・・・8.晩夏光認知症の姑を亡くなるまで介護し続けた母。周囲の理解を受けられず、責められながらも懸命に最後まで看取った母。その後夫を亡くして一人田舎の家で暮らす母。次第に母も認知症に・・・ギラギラの夏が過ぎる頃の陽射しを晩夏光と言う。そんな母の晩年に涙する息子・・・「真夏のギラギラした陽射しに比べて、柔らかで、まろみのある光でしょう?まるで今の私みたい」