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<原点回帰:PER>
80年代後半のバブルの頃からファンドマネジャーをしているので、色々な局面、事態に遭遇してきました。映画「バブルへGO!」などというものも近年ありましたが、日経平均株価は近い将来10万円を超えると真面目に信じられた時がありました。そんな時、株価の伝統的なバリュエーション指標など、どれも機能することなどありません。そうなると出てくるのが“斬新なアイデア”のバリュエーションの見方です。当時の渦中では極めて真剣に論じられていましたので、それを振り返って後世の人が「あれは異常だった」と検証するのは容易いことですが、それこそ「後から結果を見て言うならば、誰にだって出来る」という話です。「Qレシオ」などと呼ばれた指標はその典型でしょうし、その後も強気相場の多くの局面で「EV(エンタープライズ・バリュー)」に基づく計算方法だとか、キャッシュフローを中心に考える方法だとか、色々なものが陽の目を浴びる場面がありました。今でもそれらが投資尺度の一つとして使われているのも事実ですし、それらの意味を否定するつもりは毛頭ありません。 ただこの長きに亘って、最後に一番有効で、何だかんだと言いながらも、最もシンプルで使い易いバリュエーション指標と言えば、私は「PER」だと考えています。正に株式投資の着眼点の原点である「利益成長」に着目したバリュエーション指標です。「時価÷1株当たりの利益」で計算されますが、ここで使う1株当たりの利益は、通常は予想し得る一番近い将来の利益、すなわち今現在で言うならば2012年3月期決算の予想データです。日本企業ならば今期予想数値として決算発表時に開示し、それから大きく変動が生じるようならば「上方修正」や「下方修正」を発表します。米国企業の場合も「ガイダンス」という形で着地見通しのレンジを開示します。それをベースに日々把握し得るマクロ環境などをプラス・マイナスすれば良いのです。 もちろん、この収益予想ということが最も難しいことであるということは、100戦100勝のファンドマネジャーやアナリストがこの世に居ないことからも明らかですが、ただ実務で使えるかどうかという視点で考えると、最も実務的なものと言えると考えます。例えば震災などの災害で生産が止まったり、或いは為替変動により円換算ベースの売上に変動が生じたりするなどということは比較的簡単に計算出来ます。また2012年3月期予想ベースと2013年3月期予想ベースとの比較なども、ある意味容易になります。例えば「前者ならば20倍だが、新製品の売上寄与と生産設備の減価償却費の減少で後者は18倍になると予想される」といった感じです。勿論「来年のことを言ったら鬼が笑う」というほどに、先々の予想の確からしさは低くなりますが、その不確かさは市場参加者の多くに同条件であるということです。誰もが同じ「不確実性」の中で判断を迫られているのですから。 <大ケガをしないPERの使い方> PERを使う時のポイントとして、「大ケガをしないため」の一つのヒントをお話しします。それは同じ土俵、同じカテゴリーを超えての比較には使わないということです。また、やはり株式市場の長い歴史の中で考えて「常識判断」を利かせるということです。これも言うや易しなのですが、迷った時には一番頼りになるのは「常識」です。 例えば「欧米のPERに比べて日本市場のそれは高い」というのは、土俵が違う話なので正しき面もありますが、額面通りに受け取ると一切の投資機会を失うことだってあります。ただ世界市場のそれらを比較して「新興国市場のそれは高くて当たり前」というロジックで、あまりにかけ離れて高い数値を正当化するものではありません。それこそ「常識」が役に立ちます。 同じ例が個別銘柄にも当てはまります。「PER1000倍以上」なんて銘柄が時々市場の人気を集めることがあります。「IPO直後で新興企業のそれは高くて当然」と強気になる市場もありましたが、やはり「常識」はあとで正しかったことを証明しています。ただ重要なポイントとして、その中でも敢えて「火中の栗を拾う」つもりで手を突っ込まないと、全然投資収益が上がらないことがあるのも事実だということです。こういう時、教科書的な「株式投資は長期投資」という理屈は何の役にも立ちません。寧ろ「Touch & Go」で割り切って売買しないと「9勝1敗で過去の利益をすべて吹き飛ばず」ことさえ有り得ます。ポイントは「常識」です。 <最終回の締め括りとして> 初めて寄稿した「書を捨てよ、町へ出よう」(2008年7月25日発行)から数えて78回目の今回でこのメルマガも最終回となりました。最後のタイトルは「原点回帰」。振返ってみるとこの間だけでも「リーマン・ショック」あり、「ギリシャ・ショック」あり、そして「東日本大震災」という大変甚大な災害があり、その都度、市場は大きく揺れてきました。今、過去のアーカイブを見直してみると、やはり私がお伝えしたかったことは首尾一貫しているのですが、それは「自分の目で見て、そして自分の耳で聞いて、そして自分自身で経験し、納得した上で、株式投資を楽しんでください」ということです。常に「株を買うとは何か?」と自問自答しつつ、いつでも自分自身で「なんで買ったのか?」ということを検証出来る状態を維持してくださいということです。だからこそ、常に自分の身近なところからそのヒントが拾えるような方法をお伝えしたかったのです。 そして株式投資こそ、究極の心理ゲームだと思っています。勝っている時、負けている時、いかに自分の欲望をコントロール出来るかということがこのゲームに勝つ最大のポイントであり、難しさです。「相場には神様がいる」というのが私の信条です。神様は間違えることなく、間違えるのは煩悩の多い人間の方です。私のように、まだまだ未熟者で煩悩の多い者は、常に神様に諭されているように思います。ただ安易な方法を取らず、真摯に市場の神様と向き合えば、神様は必ず微笑んでくれると私は信じています。 長いことご愛読いただき誠にありがとうございました。今後とも色々な形で皆様の投資のお役に立つような情報発信は続けさせて頂きたいと思っております。今回を以ってこのメルマガは終了いたしますが、またどこかでお目に掛れることを楽しみしております。今後とも宜しくお願い申し上げます。 ========================================================== 楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者 大島和隆 (楽天マネーニュース[株・投資]第107号 2011年10月28日発行より) ========================================================== お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.11.07 20:05:35
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