あいすまん

2017/03/07(火)02:57

黒豹

詩・文芸(246)

・・・ 早春の渚はまだ寒い 海からの風は肌を射すこの浜辺 貝殻の種類の多いので知られる 潮流のなせるわざか 波濤に揉まれ傷つきながら 遥か南の海から寄せてくるヒオウギ キサゴ タカラガイ 波打ちぎわを行きつもどりつ あまた貝殻を漁るうち ついに見つけたイルカの耳骨 ずんと重い化石を掌にする三半規管の名にふさわしい 丸みを帯びた三つのふくらみ いかほどの年月 海を聴いて石となったか 化石にこめられた声なき声南溟の果て水漬く屍と散華した 幾多若者たちの思いを胸に 寄せては返す潮騒の 今しみじみと聴くわだつみのこえ      ―諫川正臣「わだつみのこえ」(全体) 詩誌「黒豹」第140号(終刊号)から、主宰者の諫川正臣さん(故人)の詩を引いた。 諫川さんは2015年10月6日に85歳で亡くなっている。 愛媛県に生まれ、千葉県の房総で64年間にわたって詩誌を発行し続けた。 愛媛県西条市内に復員してきた尼崎安四を訪ね、学生時代から師事したそうだ。 140号には、師が復員してきた南方へのまなざしが読み取れる2編が掲載されている。 化石となったイルカの耳骨を介し、遠い島々に眠る死者たちの声を聴こうとする。 時間、空間は人間が便宜上、編み出した概念でしかない。 普通は自己を保つため、または生活を保つために前提として疑わない。 それら時間、空間を前提とすることを見つめ直し、意義を見いだすとしたら、 それは連続性を肯定することによって見いだされるものなのだろうと思う。 時間は連なっている、場所は関わっている。 人は土地の記憶から逃れられない。 目を背けずに生きていくことが大切なのだろうと思う。 日本詩人クラブに入ってから数年間、詩誌のやり取りのみで交流があった。 訃報に接してから、いままで振り返ることができずにいた。 ・・・

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