まんがよみ日記

2010/02/18(木)01:15

春日太一「天才勝新太郎」(文春新書)

批評(440)

クリエーターやアスリートの狂気に痺れる。 出られそうにないW杯のメンバー発表の日も万が一に賭けて準備をしていた三浦カズ。 クロサワのダメ出しに切れ猟銃をもって家周辺をうろついたミフネ。 笑いたくなるような真剣さに感動する。一流とは目的のためとあらば簡単にリミッターをとばせるひとのことをいうのだろう。無理とは自分からはいわない誇りの高さをいうのだろう。 凡人はそこまで思い込めない。己を信じることができない。だから笑うしかないのだ。  敬意と羨望と少々の揶揄。 昭和が生んだ映画界のスターを追った本書。  はたして破天荒なエピソードがテンコ盛りだ。予算も、スケジュールも、脚本も頭になく。俳優としての創作への衝動と妥協なき真剣さだけがある。すべてを注ぎ込み、神が降りるのを待つ暴走の日々。  刹那的な快楽ではない。やりたいことが型に収まりきらないからこそ、摩擦、衝突を繰り返す。熱に煽られて、映画をみたくなる。  見逃してはならないのは演技論と演出論だ。自分だけ目立てばいいという往年のスター演技ではない。説明するような仕掛けを嫌い、抑制を好む。リアリズムだけではない。口だてからはじまる夢の世界。一方でプロレスのように身を削るような殺陣。熱気に満ちた現場が目に浮かぶようだ。 破壊と創造。理想を持ち続ける姿勢。 あらゆる役者必読の書。山崎努「俳優のノート」(文春文庫)と並ぶ課題図書。 いい役者は作家性を帯びてくるのか。脚本家に血を吐くようなプレッシャーを与えたという松田優作を思い出した。(♂)  

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