リュンポリス

2016/01/11(月)12:39

正月に読破した書籍&黄金伝説展

古代ギリシア(30)

明けましておめでとうございます!2016年も遂に幕を開けましたが、正月は実家でゴロゴロしながら本を読み漁っていました。PS4は一人暮らしのマンションに置いてきてたので、暇潰しに本を読まざるを得ない状況だったのです。笑 読んだ本は三冊!どれも素晴らしい本でした。 ■『アナバシス』(著:クセノポン、訳:松平千秋) 紀元前五世紀末、敵国ペルシアのど真ん中に放り出されたギリシア傭兵部隊約1万人が、故郷を目指して敵中を6000kmも旅をするという壮絶な実話が語られています。もちろん、敵国のど真ん中なので常時戦闘状態です。身軽な騎兵隊と軽装歩兵隊に迎撃を任せ、重装歩兵隊で防御の陣形を組みながらもじりじり前進するしかありません。それに加え、巨大な河や山々も越えていかねばなりません。そこには好戦的な原住民が住み着いており、地形を利用して襲い来る原住民の猛攻にも対応する必要があります。「飢え」や「寒さ」も恐ろしい敵で、これら全てに反撃しながらも、6000kmも踏破しなければ、ギリシアに帰国できないのです。 ソクラテスの弟子であり、歴史家でもあるクセノポンが実際に体験したこの驚異的な撤退戦は、当時の行軍風景がよく分かる貴重な史料であるのみならず、読み物としても極めて優れた作品であると言えます。ペルシア帝国の王位簒奪を目論むキュロスに雇われたギリシア傭兵たちは、絶えず「給料を上げろ!」「契約と違う!」と声を上げており、いつの時代も雇用主と労働者は対立していたんだなぁと痛感しました。まぁ、ベースアップの要求虚しくキュロスは早々に戦死してしまい、結果としてギリシア傭兵部隊は敵中に取り残されることになるのですがね。笑 指揮官クセノポンの名采配で数多くの窮地を臨機応変に突破する様は素直に面白いですし、その頭の回転の早さには感心しました。クセノポンは部下の統率にも苦労しますが、その度にソクラテス譲りの話術を用いて部隊をまとめていきます。この書物はかのアレクサンドロス大王が東方遠征の際に参考にしたとされていますが、その理由が分かった気がしました。 ギリシア好き以外の方にも是非読んで欲しい名著でした。史料ではなく、小説として読んでも、その面白さは随一でしょう! ■『ホメーロスの諸神讃歌』(著:ホメーロス、訳:沓掛良彦) 紀元前八世紀頃~ヘレニズム期に至るまで、ホメーロスが歌ったと伝えられる讃歌の現存するもの全てを収録した書籍です。無論、実際にこの讃歌をホメーロスが歌ったわけではなく(そもそもホメーロスが実在したかどうかも議論の分かれるところです)、ホメーロスの二大叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』を参考にしながら後世に書かれた讃歌に過ぎないのですが、それであってもこのホメーロス風讃歌はギリシア神話において重要な位置を占めています。科学的歴史の始祖でもあるあのトュキディデスすら、ホメーロスが作ったものと信じていたそうですし、真の作者はどうあれ、当時はそれなりの影響力があったと考えられるからです。 デメテル讃歌、アポロン讃歌、ヘルメス讃歌、アフロディテ讃歌の四大讃歌が特に読み応えがありましたが、この本の真価は注釈にあると言えるでしょう。というのも、讃歌本編よりも注釈の方が数倍長く、細かく丁寧に解説されており、注釈から得られる知識の方が膨大であったからです。今まで知らなかった情報も多くあり、まさしく目から鱗の「知識の宝庫」でした! ただ、ヘルメス讃歌の注釈にある「くしゃみは凶兆」という解説は腑に落ちません。先ほどの『アナバシス』では、クセノポンは演説の中で「くしゃみは吉兆」として語っていましたし、『オデュッセイア』でも吉兆として描かれています。ペンシルベニア大学のピーター教授は、自身の講義で「くしゃみはゼウスの雷鳴と同質のものと考えられており、吉兆とされていた」と言っていました。果たして、どちらが正しいのでしょうか?単なる訳者のミスなのか、くしゃみは吉凶両方を表すことのできる予兆だったのか・・・。謎は深まるばかりです。 ■『ヘレニズム文明』(著:P・プティ/A・ラロンド、訳:北野徹) 今までアルカイック期や古典期ばかりに触れてきたので、ヘレニズム期にも手を出そうとその概説書を買ってみました。以前、フランソワ・シャムーさんの著した分厚い『ヘレニズム文明』を読んでたのですが、読破する前に図書館へ返却してしまいましたし、もう殆ど覚えていません。笑 ディアドコイ戦争やクレオメネス戦争、第一次~第三次マケドニア戦争ぐらいは把握しているのですが、その他文化やギリシア神話の変容ぶりなどは手付かずだったので、この本に非常に助けられました。 ヘレニズム期の重要な都市(アレクサンドリア、アンティオキア、ロドス島、デロス島、アテナイ、ペルガモン)の特徴が詳細に解説されてますし、社会体制や各王朝の政策なども分かったので、大満足です!ヘレニズム期は、私の思っていた以上に、今で言う「グローバル化」が進んでおり、驚くことばかりでした! ただ、ヘレニズム期は必然的に「ローマが台頭し、ギリシアが征服されていく時代」でもありますので、ギリシア好きとしては複雑です・・・。ローマが嫌いなわけじゃないですし、ギリシア文化が西欧に広く波及する要因になったので、むしろローマは好きな方ですが、それでもローマに四苦八苦するギリシアを見ていると、切なくなります・・・。 これら三冊が正月三が日に読破した本でした。『アナバシス』は去年の年末から読んでいたので、1月1日にすぐ読み終わり、それからは『ホメーロスの諸神讃歌』と『ヘレニズム文明』をこたつで丸まりながら読んでいました。笑 余談ですが、東京に戻った際に、上野で開催されている「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」に足を運び、予想外にギリシア神話要素が多くて感動しました!「黄金」というテーマから神話を切り出しており、今までそのような視点から神話を眺めてみたことはなかったので、「なるほど~!」と思うことが目白押しでした!特に、『アルゴナウティカ』で有名な金羊の毛皮伝説が、黒海付近の人々が羊毛を用いて砂金を採取していたことに由来すると知り、衝撃を受けました。 また、デメトリオスのディアデマが展示されていてテンションが急上昇しました。デメトリオスはアンティゴノスと共に、イプソスの会戦というヘレニズム期最大の大決戦(アンティゴノス&デメトリオスVSセレウコス&リュシマコスという王たちの真っ向勝負)に参戦した武将ですので、これは興奮せざるを得ません!!!笑 ついつい熱くなってしまい、一緒に来ていた友人に迷惑をかけたかもしれません。笑 その勢いで黄金伝説展の図録を購入し、それも現在ちょいちょい読んでいます。メインで読んでるのはヘロドトスの『歴史』ですが。 新年からギリシア色に染まっておりますが、今年も宜しくお願いします!

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