モリモリキッズ　スペシャル

「ブラジルへの郷愁」レヴィ＝ストロース　川田順造訳　みすず書房。1995年10月6日発行。消費税が3％で税込み8755円。A4変形でしょうか、本文231ページの分厚く重い写真集です。もちろん絶版で、現在は中古本で15000円もします。それほど貴重な本だということです。みすず書房の書籍は大好きでたくさん持っていますが、その中でもこの本は別格です。1983-1984年の200日あまりのブラジル・アマゾン、ボリビア・アンデス南米放浪の後でアマゾンの本を神保町に通って探しまくりました。これは新刊で買いましたが、そんな大量のアマゾンに関する書籍の中の一冊です。この当時はバブル崩壊直後とはいえ、まだこの様な本を出版する力があったのです。



　ーーークロード・レヴィ＝ストロースといえば、構造主義（structuralisme）の原典となった「悲しき熱帯」が有名ですが、本書は、その著者が二台のライカで撮った1930年代のブラジル、アマゾンの写真集です。美しいモノクロ写真と共に彼のスケッチも入っています。
　白亜の高層ビルの建築が始まったサンパウロと、対照的に300年余りの白人による侵略の中で、追いやられ、殺され、略樽されて未開人へ転落したある部族。しかし、同時に見られるジャングルで暮らす先住民たちの逞しさと美しい笑顔。

　アメリカ大陸発見と欧米人は言いますが、先住民は「俺たちがどう猛なお前達を発見したのだ」と言うかもしれません。そして忘れてはいけない、おぞましい民族大虐殺（ジェノサイド）。文明の不幸な衝突は古くて新しい問題。ヨーロッパ中心主義が破壊したものは限りなく大きい。それは、同時に日本にも置き換えて見ることができるものでもあるのです。近代化による世界的な画一化とそれに対する過激な抵抗。それでも無邪気な笑顔を見せる少女、裸で戯れる子供達の姿には、心が和みます。しかし、同化政策や入植者、金堀人たちとの軋轢で、この光景の多くが失われた過去のものであることも事実なのです。真に美しいものは忘却の彼方にある、のかもしれません。ーーー


　顔に絵のある子供。これは入れ墨ではなく描いたもの。モノクロなので色は不明ですが、炭かアマゾンで食紅の材料となるウルクンで描いたものと思います。



　私が構造主義に関心を持ったのは、美大生だった70年代当時。コンセプチュアル・アート（概念芸術）が台頭していました。「美術手帖」を愛読し、国分寺書店にも日参していました。コンセプチュアル・アートの原点はマルセル・デュシャンで、76年に渡欧した時にパリのポンピドーセンターで見たデュシャンの​《1.水の落下、2.照明用ガス、が与えられたとせよ》​通称「遺作」には最も感銘を受けました。その概念芸術の基本に構造主義の考え方が深く関係しているのです。表層的な美しさや情念に訴えるのではなく、作品に込められたコンセプト（含意、観念、思想など）を重視する芸術です。現代アートの根幹といえるかも知れません。ローズ・セラヴィ、ジョセフ・コスース、ヨーコ・オノなどもその先達です。同時代にアンディ・ウォーホルが代表するポップアートも台頭。これらは、文学や映画、音楽にまで多大な影響を与えました。構造主義といいますが、イデオロギーではありません。デモクラシーを民主主義と訳したぐらい勘違いさせるかも知れません。



　構造主義というのは、1960年代に登場し主にフランスで発展していった20世紀の現代思想のひとつ。「あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す語である。」（Wikipedia）構造主義の代表的な思想家としてクロード・レヴィ＝ストロース、ルイ・アルチュセール、ジャック・ラカン、ミシェル・フーコー、ロラン・バルトなど。これらの考え方は、ソシュール言語学と結びついて、シニフィアン（意味するもの）・シニフィエ（意味されるもの）という構造を見る。「言葉は『ものの名前』ではない」。構造主義の祖といわれる言語学者ソシュールの言葉です。例えばピザという時にピザそのものはシニフィアンですが、ピザから連想されるものはシニフィエです。我々は、むしシニフィエに縛られているといえます。
　構造主義の考え方は、「価値は所与のものではない。視点を相対化せよ」「意味や価値は所与のものではなく、要素間の関係において生成する」というもの。具体的に言うと、物の名前は物そのものではないということ。ノーベル文学賞作家、ガブリエル・ガルシア・マルケスの『百年の孤独』の冒頭部分を思い出します。文明人と称する我々の社会は「共同幻想」によって成り立っているといえます。全てのものは等価である。それを崩しているのがシニフィエという「共同幻想」なのです。



　なにひとつためらいのない素直な感情の表現。彼らを未開人と呼ぶのは、文明人と称する我々の奢りです。レーゾン・デートル（存在理由）は等価です。



　紀行が非常に困難を伴うものだったことが分かります。私もマラリアや黄熱病などの予防注射をしてから旅立ちました。彼の旅は、入植者やすでに接触のある先住民の協力も得て行われた様です。



　1930年代のサンパウロは、東京より遥かに近代的な都市でした。​【1930年頃の日本】OLD JAPAN-1930s と 東京復興の父・後藤新平【妻女山里山通信】​​：美しかった首都東京も10数年後には焦土と化し、70数年後には放射能汚染された。過ちを繰り返してはならない。（著作権満了のナショナル・ジオグラフィックで作ったスライドショー。世界中からアクセスがあります。）



『悲しき熱帯』レヴィ＝ストロース　川田順造訳　中央公論社。1977年初版。原著は1955年。1930年代のブラジルの少数民族を訪ねた旅の記録をまとめた紀行文で、その文章にちりばめられた思想、特に優れた未開社会の分析と、ヨーロッパ中心主義に対する批判により後に本書はセンセーショナルな評価を受け、文化人類学、また構造主義におけるバイブルのひとつとなる。（Wikipedia）
　写真集も書籍も縮刷版や文庫本が出たと思いますが、絶版です。「日本の古本屋」などで古書を探すとあるかも知れません。ニーチェが神は死んだと叫び実存主義から虚無主義へと。そして構造主義の萌芽を生む。ポストモダンと言われた時代の到来。その保守化。そしてスーザン・ソンタグの『反解釈』へと。『写真論』は私が最も影響を受けた一冊です。集団感情に惑わされない「個」の確立。


　1983-1984年の200日あまりの南米放浪のブラジル・アマゾンの写真です。カメラはコンタックスでレンズはカールツァイス。リバーサルフィルムです。日系人の牧場を訪ねたり（私のために牛を一頭潰してくれました）、マナウスの貧民街の女性ばかり3人の家で居候したり、ジャングルの中の先住民の集落へ行ったり、黒人のローマといわれるサルバドールで早稲田の学生とマンションを借りてカーニバルを堪能したりと充実した毎日でした。ボリビアへのジェット機が故障して緊急着陸したり、マフィアに襲われそうになったり危険な目にも遭いましたが、なんとか生き延びて帰国しました。アマゾンで世話になったノルウェイの女性から遊びにおいでと言われて行ったことも。新婚旅行もアマゾンでした。その時のビデオは3時間あまりありますが、アマゾンのアルテル・ド・ションというタパジョス河畔の風光明媚な村で妻が水彩画を描いていた時に、村の子供たちが1時間半もずっと側で見ていたのが印象的でした。貧しいけれど、日本の子供にはあまり見られない好奇心1000％のキラキラした瞳は忘れられません。



■​モリモリキッズ　メインブログ​　ー信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログもー

■​「村上春樹さんのピーター・キャットを中心とした70年代のクロニクル」​というムサビの美大生時代に彼のジャズ喫茶でアルバイトしていた当時のブログは世界中からアクセスがあります。この文章をクリックで見られます。ロンドンに5週間住んでいて、Queenのフレデイ・マーキュリーの恋人のメアリー・オースチンが勤めていたBIBAの店で当時の私の恋人が彼女からジャケットを買った話。70年代の美大生の赤裸々な人生が見られます。

●​インスタグラムはこちらをクリック​。​X(ツイッター)はこちらをクリック。
​YouTubeはこちらをクリック​。米子大瀑布、絶滅危惧種のナミルリモンハナバチ・キバネツノトンボ・北信流など。これからどんどんアップしていきます。<a>。
​もう一つの古いチャンネルはこちら​。76本のトレッキングやネイチャーフォト（昆虫や粘菌など）、ブラジル・アマゾン・アンデスのスライドショー。