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カテゴリ:映画
まだ、震えが止まりません。
単なる感動ではなく、人間に対する恐怖でもなく、怒りでもなく感情のどこかが直に揺り動かされるような…。 ------------ 1994年。アフリカ、ルワンダ。 フツ族出身のポールは、ベルギー系ホテルの支配人。 ツチ族の妻を持ち、ルワンダ政府軍将軍や、国連軍の大佐、欧米の記者、赤十字の職員達からも信頼されるホテルマンです。 ------ 少数派のツチ族と多数派のフツ族の民族対立は、国連の平和維持軍(Peace Keeping Operation)の仲立ちで終息に向かうかに見えました。 しかし、和平派の大統領が暗殺されたことをきっかけに、周到に準備されていたツチ族大虐殺が幕を上げます。 ------ 主人公に出来るのは、自分の家族を、そして、自分を頼って来た隣人たちを守ることだけでした。 「危険」を盾に現場に出ようとしない記者も、カメラマンの突撃取材映像を観て、世界への配信を決意しますが、これは国際世論に逆効果をもたらします。 すなわち「国際社会はルワンダから手を引く」と。 国連軍のおかげで何とか均衡が保たれていたホテルの平和も、危機に晒されます。 何も出来ない現実に、歯噛みする平和維持軍の大佐。 それでも孤児達を救おうと街に向かう赤十字職員。 緊迫感を増す国内事情。 「ツチ族を匿う者は裏切り者だ」と扇動するラジオ。 ツチ族をゴキブリと呼ぶ男は、主人公に言います。「ゴキブリの臭いがする」と。 圧倒的な虐殺の現実の前に、妻の胸から下げられた十字架は、沈黙したままです。 ------ 道路を埋め尽くす死体。 虚しく転がされ、火を噴いている赤十字のバス。 鉈を手に街をうろつく「普通の」人々。 平和という言葉の無力さ。 虐殺の熱狂に酔う人間の弱さ。 賄賂がなければ、命さえ救えない現実。 次から次へと襲い掛かる危機に、ホテルマンとしての知恵と経験と人脈を駆使して、手の届く人々を守り続ける主人公。 「アフリカのシンドラー」と呼ばれた男の「戦い」の軌跡を描いた、奇跡の映画です。 ------------ 主人公はどこにでもいる、普通の人として描かれます。 つまり、彼は結果としてのヒーローであっても、「映画の主人公のような」スーパーマンではありません。 (いや、本当は語学が出来て、仕事も出来て、の優秀なホテルマンなのですけどね。) また、この映画には必要最低限以上の残虐なシーンはありません。 その意味では「安全な」映画でありながら、残虐なシーンが省かれている分、「心の問題」に焦点が当てられます。 息をつかせぬ展開、緊張感を失わせないカメラワーク、音楽のセンス、映画としてのクオリティもとても高い作品です。 ------------ しかし、この映画が、我々に突きつける問いは、あまりにも重い命題。 つまり… 同じ情況におかれた時、あなたならどうしますか、と。 あなたはあなたの立場で、今、何をしますか、と。 ------ 第二次世界大戦終結後、「冷戦」と呼ばれる時代は、正確には「代理戦争」の時代でした。 民族間の、あるいは貧富の差を契機とした小さな火種は、イデオロギーと大国国益主義の油を注ぎ込まれて、殺戮と憎悪の暴発をもたらしました。 しかも、その「民族」という概念さえ、植民地主義によってもたらされた、あいまいな定義に過ぎなかったことを思えば、誰が何に怒りを覚えるべきなのか。 ------ あるいはイデオロギーによる殺戮があったことも忘れてはなりません。 「民族自決」の概念は、各地で独立運動を産み、それに対する「政府」による弾圧-殺戮という構図が各国で見られました。 「普通の人々」の狂気を引き出したイデオロギーは、凶器と化して自国の国民を襲いました。 それだけで悲劇は終わりません。 「冷戦」の終結後、余剰となった武器が新たな紛争地に持ち込まれ、あるいはテロリスト達の手に渡り、一層の悲劇を産みます。 いや、産み続けています。 ------ 人の命の重さが同じだ、というのなら、犯した罪の重さも同じです。 私の中にも差別の感情はあります。 嫌いな奴もいますし、他人に殺意を抱いたことだって、あります。 ------ 関東大震災の時、風説の流布により、「普通の人々」が朝鮮半島出身の人々を殺戮した事実。 日本に住む「普通の人々」が、兵士となり、アジアで人を殺してきた事実。 いまだに原爆の連続投下を正当だと主張する、加害国の「普通の人々」の気持ち。 ------ 私は、私自身も「普通の人々」の一員であり、彼らと同じ立場に立った時、日頃の憎悪 あるいは 「自分の身を守るため」という大義名分といった導火線があれば、人を殺してしまいかねないことを知っています。 だからこそ、ブレーキとしての平和の必要性を声高に叫びますし、「不偏不党無所属」を看板に掲げています。 以前「大アンコールワット展」の感想で書いた文章を再度掲げましょう。 ------ 宗教が人を殺すなら、私はそんな神を信じない。 権力が人を殺すなら、私はそんな政治を認めない。 利権が人を殺すなら、私はそんな会社を許さない。 民族が人を殺すなら、私はそんな「民族」に属さない。 思想が人を殺すなら、私はそんな言説を肯定しない。 ------ アカデミー賞にノミネートされたのこ映画はしかし、日本での配給が危ぶまれていました。 それに対し、この映画を上映する運動が起こり、その結果、日本公開が実現しました。 詳しくはこちら。 私はそんな運動があったことを知りませんでしたけど、上映に漕ぎ着けて下さった方々に感謝を表したいと思います。 ------------ 全編英語、っていうところに違和感を覚えないではなかったのですが…作品の価値を考えると許される瑕疵かな、と。 ------ 『ホテル・ルワンダ』 - "HOTEL RWANDA" - 2004年 南アフリカ=イギリス=イタリア 122分 http://www.hotelrwanda.jp/ 監督:テリー・ジョージ 出演:ドン・チードル / ソフィー・オコネドー / ホアキン・フェニックス / デズモンド・デュベ / デイヴィット・オハラ / カーラ・シーモア / ... ★★★★★ ------------ 参考までに、これらの映画も挙げておきましょう。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 『ロード・オブ・ウォー』 (武器商人) ------ どれも映画として見ごたえがあり(面白く、と言うと不謹慎かしら)、かつ考えさせられる作品です。 (写真はアフェリエイトリンク。題名からのリンクは感想。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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