カテゴリ:美術
古来、日本には八百万(やおよろず)の神々がおわしまし、
我々の生活を見守って下さっておりました。 それは、地域信仰や仏教とも結びつき、この国を平和に保ってきたのです。 ----- 「神国日本」とは、神の祭祀を尊び、神の言いつけを守る、神と共にある国家のありようであり、 「何をしても神が守り、赦してくれる」という考え方とは、一線を画すものでした。 (『神道の逆襲』参照) ![]() 『神道の逆襲』 菅野覚明 白山信仰も、そういった八百万の神々の一柱として、 この国の礎をなしていたのです。 ===== その白山信仰に焦点を当て、信仰の歴史的変遷をたどるこの展覧会。 形を変えながらも、連綿と受け継がれてきた、 「山」に対する畏敬と親しみを感じさせてくれる好企画でした。 ----- 白山信仰は、泰澄に始まるとされています。 養老元年(717)、泰澄が白山に登り、白山を開いた、と伝えられていますが、 白山での宗教的祭祀の痕跡が、考古学的に確認できるのは、 今のところ、9世紀以降とのこと。 泰澄自身の、宗教的祭祀の痕跡が発見されれば面白いのでしょうけど、 まぁ、そんなピンポイントな発見は困難でしょうから…。 それでも、いつか8世紀に遡る祭祀跡が見つかることを期待してしまいます。 ----- 大雑把に、白山信仰の変遷を、展覧会のカタログから引き写しておきましょう。 泰澄が白山を開いて後、美濃・加賀・越前に、「馬場(ばんば)」と呼ばれる信仰拠点が出来、 そこから白山へ至る「禅定道(ぜんじょうどう)」という登山道が定められたのが9世紀。 12世紀には、白山権現は、十一面観音の垂迹(化身)とされ、 十一面観音像が祀られるようになります。 14世紀から16世紀にかけて、泰澄が白山登山の拠点とし、 創建した平泉寺(へいせんじ)が、最盛期を迎えます。 僧坊の数三千と言いますから、正に「境内都市」でした。 しかし、この杜も、一向一揆のために放火され、一時はその勢いを失います。 その後、再興され、豊臣秀吉の庇護をうけるようになりました。 この一方では、白山に関する利権争いがあり、 これは江戸時代に入っても続きます。 江戸時代には、白山は、富士山・立山とともに、三山巡の対象となりました。 地元の信仰、修験者の修行の場、に加えて、「参詣」の場となったのです。 ----- この隆盛も、明治政府の「神仏分離」「廃仏毀釈」という、 文化的理解のない政策の前に、脈を断たれます。 ----- 2年ほど前、ワタリウム美術館さんの企画旅行で、白山平泉寺に足を運んだのですが、 その広く、静謐な佇まいは、神域と言うに相応しい荘厳さがありながら、 往時の繁栄が歴史のものとなってしまった寂しさは、ぬぐいきれないものがありました。 平泉寺という名前ながら、本来は寺ではなく、白山社をそのまま平泉寺と称したもので、 神社の拝殿額に「中宮平泉寺」と掲げられているあたり、 おおらかな神仏習合の姿を見て取ることができます。 ===== さて、展覧会の中では、やはり仏像が目を引きました。 基本的に、白山権現の本地(正体)は、十一面観音とされているのですが、 聖観音(しょうかんのん)、阿弥陀如来と共に、三尊像として祀られます。 『泰澄和尚伝』中では、それぞれ、九頭竜王・小白山別山大行事・老翁太己貴 なのだそうですが、これらの神像は、目にしませんでした。 この九頭竜王が池の中から顕れたというのも、白山信仰の本源として、 水分神(みくまり)=水神信仰があったことを伺わせます。 吉野でも、熊野でもそうでしたが、山岳信仰は、水神信仰と切り離せないものなのでしょう。 ----- 法具類にも、面白いものがありました。 「三鈷鐃(さんこにょう)」と呼ばれる仏具は、 現在は東大寺のお水取りにしか使われない珍しいもので、 雨乞いの儀式に使われたと考えられるものですが、 全国的にも遺例が少ないのに、北陸では何例かの発見があるらしく、 平安期の密教の流行が伺えるそうです。 ----- 「白山争論」の資料類は、文字資料なので、眺めて「面白い」というものではありませんが、 解説を読むと、白山の利権をめぐる争いが延々と繰り返されてきた様が見て取れ、 なんだか複雑な気分になるとともに、あまりに人間的な営みに、なんとなくおかしみが感じられます。 同じ部屋に展示されていた、紀行文や絵地図、参詣曼荼羅は、うってかわって 「参詣というエンターテインメント」を、庶民がいかに楽しんだかを物語っていて、 見ているほうも楽しくなります。 ===== しかし、白山そのものに訪れず、展覧会で納得しようとした私は 浅はかだったというほかありません。 知識として、勉強して頭に入れてきたつもりではありましたが、 今回の展覧会に、ちゃんとピントが合わせられていたなかった気がします。 ----- 山岳信仰は、里の博物館で、頭で理解すべきものではなく、 「山」の中で感じて、初めて腑に落ちるものなのでしょう。 同時開催で、『木村芳文写真展「白山」』が行われていました。 美しい白山の自然を、見事に切り取った写真作品。 信仰の本当の姿は、この写真の中の方にこそ、あるのだと思います。 ----- いつか、自分の目で、肌で、白山を感じてみることを思いつつ。 ===== 『白山 -聖地へのまなざし-』展 木村芳文写真展「白山」 同時開催 @石川県立歴史博物館 (金沢) [会期]2007.07/21(土)~08/26(日) [開館]09:00-17:00(入館は 16:30まで) [休館] 会期中無休 [料金] 一般 700円 / 大学生 550円 / 高校生以下無料 ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 17, 2007 11:22:32 PM
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