カテゴリ:美術
ディック・ブルーナの名を、もし「誰だっけなぁ?」と思ったとしても、
「ミッフィー」あるいは「うさこちゃん」を知らない人はいないでしょう。 その意味では、このblogで取り上げてきた中で、 一番の有名人かも知れません。 ----- 「ミッフィー」「うさこちゃん」の名称は、版権の関係。 なので、どちらの名前で知っているかで、世代が分かるそうです。 ちなみに、私は「ミッフィー」派。 ----- 実は、この「ミッフィー」という名は、アメリカでの呼称で、 ブルーナ氏の本国オランダでは、つまり、原作では、 「ナインチェ」という名前なんだそうです。 うーん、知らなかったなぁ。 ----- さて、そのミッフィーのシリーズの中に、 「うさこちゃん びじゅつかんへいく」というお話があります。 ![]() お父さんお母さんと、美術館に行くことになったミッフィー。 ミッフィーは、様々な「現代美術(モダン・アート)」に出会います ----- このお話を入り口に、ミッフィーと共に現代美術を鑑賞し、 あわせてブルーナ氏の軌跡をたどろう、という展覧会。 ちょっと子供向けかなぁ、と躊躇してたのですが、行ってみれば、 十分に観応えのある、むしろ大人向けな展覧会でした。 ===== 最初のフロアは、「現代美術」の紹介。 ちょうどトーク・ツアーのタイミングだったので、 解説を聞きながら拝見したのですが、 その解説をまとめるなら、「現代美術は自由だ」ということ。 ----- ミッフィーが「本物そっくりのりんご」と評した「写実主義」。 聖書でも神話でも肖像でもなく、日常を主題として描く。 そして、それが「真当な作品」として扱われる。 これは、つまり「画題」からの解放なんだ、と。 ----- そして、カルダーのモビールに象徴される動く彫刻。 錯視も含めて、固定しない、という自由。 ----- 手法の自由。 秘伝としての遠近法、均整の取り方、デッサン力、 そういったものから離れて、「どう描くか」こそが モダン・アートの課題。 ----- 抽象絵画は20世紀の「発明」です。 カンディンスキーの 「絵画は音楽に近付くべきだ」 という言葉が引かれます。 音楽を聴いて、何かを感じるように、 絵を観ることで、何かを感じる。 ----- 印象派の絵は、色彩からの自由とも言えます。 点描は、科学的な考察に基づいた、色彩のマジック。 ----- 技法だって自由です。 コピー、コラージュ、既にあるイメージを繰り返し、組み合わせ、作品にする。 ===== 階をつなぐコーナーでは、ミッフィーの絵本が並び、ビデオが流れ、子供が遊べるように。 ここだけは写真もOKです。 ![]() ===== ブルーナ氏は、1927年生まれ。 2008年現在でもご健在で、今でも、作品を作り続けていらっしゃいます。 オランダの街では、自転車で走ったりする姿を見ることが出来るとか。 ----- もともと、現代美術家を目指したのですが、 実家が出版社だったため、実家にデザイナーとして入社し、 ぺーパーバックや、ポスターのデザインを多く手がけました。 その一部が展示されているのですが、これが本当にすごい。 質・量・手法、多彩で圧到的、そしてそれぞれが魅力的。 それこそ、キャラクターデザインからコラージュ技法の使用、 現代美術のエッセンスを、デザインに昇化する力は見事。 ----- これらの経験が、「ミッフィー」には生かされているのです。 ブルーナ・カラーと言われる、子供に優しい、限られた色彩の鮮やかな組み合わせ。 太い輪郭線は、先にセル画に描いておいて、 色を塗ったシートに後から重ねることで、 他の色と混じることなく、くっきり浮かび上がります。 この線も、よりシンプルになるよう、何度も(時には100回も) 推敲が重ねられた上での決定線。 ----- シンプルで可愛い、には、蓄積された経験と、 我々の目には映らない努力が隠されているのです。 ===== 最後のコーナーは、輪郭線の描かれたセル画と、白紙が用意され、 ブルーナ氏の作画技法を追体験できます。 はみ出したって良い、輪郭線にあわせたって良い、自由な感覚で組み合わせて、 その上にブルーナ氏の輪郭線をのせれば、オリジナル「作品」の出来上がり。 ----- 夏休みだけに、子供達がいっぱい挑戦していて、微笑ましい風景でした。 ===== 後半の、ブルーナ氏の足跡をたどるコーナーは、 あると思ってなかったので、嬉しいサプライズで、 最後のコーナーとあわせて、とても面白かったのですが、 前半の現代美術紹介は、「ミッフィーの観た作品」と 展示作品のギャップが少々大きいかなぁ、と。 ちょっと、「ミッフィーの観た作品」から拾った意図を 難しくひねりすぎている感がありました。 そういう意味では、難易度的には大人向け。 でも、それなりに有名作家さんの作品が集められてはいます。 フェルナン・レジェの作品はちょっとブルーナ風で良かったなぁ。 もう一つ加えるなら、子供向け、にしては、展示位置がちと高い。 大人がかがまなきゃいけない高さで展示してあっても、良かった気がします。 台を置く、とかね。 触れる彫刻なんかも展示してあげれば…と、これは、「原作」から離れてしまいますけど。 ----- とは言え、ブルーナ氏の優しさが伝わってくる、 とても素敵な展覧会でした。 80歳を過ぎてなお、子供たちに夢と幸せを与え続けているブルーナ氏。 ご健康をお祈りすると共に、私自身、なにかしら見習いたいものだなぁ、と思いました。 ===== 『美術館に行こう! ディック・ブルーナに学ぶモダン・アートの楽しみ方 』 @サントリーミュージアム (大阪・天保山) [会期]2008.07/25(金)~2008.09/15(月) [開館]10:30-19:30 [料金] 一般 1,000円 / 大学生・高校生 700円 / 小中学生 500円 www.dickbruna.jp 作者: ディック・ブルーナ [Dick Bruna] (1927-) wiki 児島 虎次郎 [KOJIMA Torajiroh] (1881-1929) wiki 北代 省三 [KITADAI Shozo] (1921-2001) 太田 喜二郎 [Ohta Kitaroh] (1883-1951) マルク・シャガール [Marc chagall] (1887-1985) ジョルジオ・デ・キリコ [Giorgio de Chirico] (1888-1978) モホイ・ナジ [Laszlo Moholy-Nagy] (1895-1946) ヴァシリー・カンディンスキー [Wassily Kandinsky] (1866-1944) ミロ [Joan Miro] (1893-1983) アルフレッド・シスレー [Alfred Sisley] (1839-1899) フェルナン・レジェ [Fernand Leger] (1881-1955) アンディ・ウォーホル [Andy Warhol] (1928-1987) マン・レイ [Man Ray] (1890-1976) ロバート・ラウシェンバーグ [Robert Raushenberg] (1925-2008) ====== なお、大阪駅はただいま改装工事中なのですが、 ここのポスターもにブルーナ氏の作品が使われています。 ![]() また、ローソンさんでもキャンペーン中。 「ハッピー子育てプロジェクト」。 展覧会とのコラボはないですけどね。 ![]() あと、「なっちゃん」も。 こちらは、展覧会ともコラボありでした。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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