カテゴリ:美術
ドイツに住んでいた時、どうしても行きたい街がありました。
その街の名前はデッサウ。 建築・美術の総合学校として名を馳せた、バウハウスの息吹が残る街。 機能性・合理性と美しさが直結した、バウハウスのデザインは、 古びないどころか、今でも新鮮な驚きを与えてくれます。 事前知識は持っていたつもりでしたが、デッサウの街の佇まいは、 想像を軽く超えていました。 ![]() ![]() ![]() モダンで明るい建築物群。 卓越した工業デザイン。 絶妙な色彩バランスを保つ絵画。 それらが今でも息づいていて、オフィスやカフェとして、 当たり前に、機能性を失わずに使われているのです。 見学用の校舎やマイスターハウス(教師のための住居)ですら、 明日からでも使えそう。 十分に楽しい体験ではありましたが、しかし、あまりにも膨大な情報量に、 自分の中の整理が追いつかなかったことも確かです。 ===== この夏、東京藝術大学大学美術館で、「バウハウス・デッサウ展」をやっていると聞き、 「デッサウに再び行くよりは近い」と自分に言い訳して、東京に向かいました。 ----- この展覧会では、バウハウスの歴史と各方面にわたる活躍が、 その多様性をそのままに、分かりやすく整理されながら紹介されていて、 単なるデッサウ滞在の追体験以上に、知的刺激を与えてくれる、 期待以上の面白さでした。 ===== 1.バウハウスとその時代 ![]() (写真はwikiより) これだけ大きな影響を与えたバウハウスですが、 活躍したのは、1919年から1933年までの14年間に過ぎません。 「アーツ&クラフツ運動」の影響を受け、 そのドイツ的展開として始まったバウハウス。 しかし、この時期はナチス台頭の時期と重なり、 美術家・建築家を目指して挫折した経験のあるヒトラーから 「退廃芸術」の烙印を受け、息の根を止められます。 ===== 2-1.基礎教育 バウハウスでは、パウル・クレーやカンディンスキーといった画家達が、教壇に立ちました。 その教育も、色彩と心理の研究から物質・素材の用途研究にまで及びます。 ----- 面白かったのは、ヨーゼフ・アルバースの「構成研究」の実作品群。 一枚の紙に、丁寧な切込みを入れることで、それだけで、 安定感のある立体が、複雑な模様が、立ち現れてくるのです。 切紙細工にも似た、不思議な世界。 ----- そして、パウル・クレー&カンディンスキーの、色彩授業。 それぞれの色が持つイメージ、その活かし方、形と色、 他の色を背景にした場合、どう見えるか…。 色彩の魔術師たちが、生徒と共に重ねた実践研究。 ----- 単なる建築(=バウ)の学校に留まらない、幅広く自由な芸術教育が、 バウハウスの豊かな創造性へと繋がっていたことを、見て取ることが出来ます。 ===== 2-2.工房 バウハウスの工業デザインは、実際の製品となって、人々の手に渡りました。 ![]() ![]() ![]() 卓上ランプや吊照明、椅子のデザインは、今見ても斬新で魅力的。 そして、それらが、それぞれ個性的でありながら、 大量生産にも適しているという点が素晴らしい。 折りたたみ椅子にしても、肘掛け椅子にしても、 すごくデザイン性に富んでいるのに、バラした構造は実にシンプル。 ----- そのことが分かる、椅子の構成パーツをそのまま貼り付けた、 宣伝用見本板が展示されていて、このインパクトはすごい。 なにせ、実物大ですからね。 しかも、これだけシンプルな構成要素から、 デザイン性と機能性に優れた椅子が成り立っているなんて、 溜息が出てしまいます。 ===== 2-3.写真と美術 そして、絵画、写真、コラージュ。 特に写真では、丁寧なスナップ写真から、ピントを調整したもの、 影を強調したもの、被写体を「構成」して撮ったもの、などなど 様々なテクニックが駆使されていることが、素人目にも分かります。 ----- しかし、一番印象に残ったのは、 バウハウス・デッサウが閉鎖される日に撮られた、一枚の写真。 デッサウに今も残る、食堂のテーブルの端に、 難しい顔をし、腕組みをして座る、一人の少女。 真っ白で細長いテーブルには、何も載っておらず、 テーブルに映る窓枠の影は、十字架にも見えて、 それを意識すると、髪を帽子で覆っている少女の姿が、 修道女のようにも感じられ、何も無い空虚さ、それ自体が主張を始めます。 ![]() ===== 2-4.舞台 バウハウスの建物の中には、舞台空間が用意されていました。 ここで演じられたお芝居のビデオが上映されているのですが、これがすごい。 学生時代に演劇をかじったこともあり、 それなりにお芝居は観ているつもりですが、 それでも、なお、前衛的だと言わざるを得ない。 ----- 仮面をかぶっての、幾何学的なダンス。 色彩鮮やかな衣裳に身を包み、演じられる無言劇。 他の美術展で何度か、ピカソ&サティの舞台映像を見たことがありますが、 それよりもさらに実験的で、構成的。 ----- 面白いのか、と聞かれれば、生でない舞台を評することはフェアじゃない、と答えましょう。 しかし、観た者の中に、何かを生み出させる、「核」をもっていることは確かです。 ----- 完成された舞台では決してないにもかかわらず、 完成された何がしかを期待させられてしまう、 不思議な不思議な舞台空間。 「完成形」を見ることの多いバウハウスの作品群において、 未完成であるが故に、もっとも、可能性を感じさせてくれる作品でした。 ===== 3.建築 建築については、どんなに展示してあっても、 本物に及ぶべくもないのは仕方ありません。 ![]() ![]() ![]() 写真よりも、模型よりも、本物の持つ力はすごい。 これは、建築系展覧会の限界。 でも、それでも、十分に刺激になる内容。 知らなければ、知らない分、そのモダンさに驚けます。 ===== 『バウハウス・デッサウ展』 @東京藝術大学大学美術館 (東京・上野) [会期]2008.04/26(土)~2008.07/21(祝・月) [開館]10:00-17:00 月曜休館 [料金] 一般 1,400円 / 大学生・高校生 800円 / 小中学生 500円 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2008/bauhaus/bauhaus_ja.htm バウハウス [BAUHAUS] wiki 作者: ヴァルター・グロピウス [Walter Adolph Georg Gropius] (1883-1969) wiki ヨーゼフ・アルバース [Josef Albers] (1888-1976) パウル・クレー [Paul Klee] (1879-1940) wiki カンディンスキー [Wassily Kandinsky] (1866-1944) wiki ===== さてさて。 ベルリンにも、バウハウス・アーキヴ(アーカイブ)があります。 ![]() ![]() この建物が、リニューアルのためのコンペを行ったのですが、 このコンペを勝ち取ったのが、「金沢21世紀美術館」で有名なSANAA。 このアーキヴの入口横にある小屋では、他のコンペ作品も含めて、 コンペ資料を一般公開しているのですが、さすがにどれも力作ぞろい。 そんな激戦の中、ドイツを代表する建築運動の歴史的建造物のリニューアルを、 勝ち取ることが出来る、というのは、さすがだなぁ、と感心しました。 このコンペ案は、HP:http://www.bauhaus.de/ から、 Gebaude (building) → zukunft (future) とたどると、見ることが出来ます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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