カテゴリ:美術
美しくて、残酷で、恐ろしい世界。
テーマ展などで、単独の作品は何度か拝見していましたが、 個展で見るのは、2005年に原美術館で行われた 『やなぎみわ展 - 無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語』以来。 (当時の感想はこちら…昔の方がちゃんと書いてて驚きます;) 今回は、第53回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館での個展開催を受けて 国立国際美術館B2Fという大舞台を、黒く染める今回の展覧会。 あの時感じた、美しくて、残酷で、恐ろしい印象そのままに、 より美しく、より残酷で、より恐ろしい世界が展開されます。 ========== 出展されているのは、 「My Grandmothers」 「Fairy Tale」 「Windswespt Women」 の3シリーズ。 ========== 「My Grandmothers」 シリーズ。 一般の女性に「50年後の自らの理想の姿」を問いかけ、 それに対するインタビューを繰り返す中で浮かび上がってきた「老後」あるいは「祖母」を、 本人に特殊メイクを使って演じてもらい、それを写真作品にする、というシリーズ。 ---------- 原美術館の時は2,3作品のみの展示でしたが、今回は、26作品もの展示。 題名は、それぞれの女性のファーストネーム(たぶん)。 それぞれに付された、一連の呟き、あるいは詩が、各作品のコンセプトを伝えてくれます。 それは、決して「バラ色」でも、「幸せに暮らしましたとさ。」でもない、 時に残酷で、時に素晴らしい、リアルなそれぞれの「老後」あるいは「祖母」。 ---------- 個人的に好きな作品は、占い師の「AI」と元教師の「MIKA」。 両作品とも、星新一先生の作品のような、物語性とひねりが利いています。 ---------- 気怠そうに少女達の占いをし続けている「AI」。 子供相手のいんちき占いと言われながら、彼女が仕事を続けているのは、 ただ一人の客、すなわち、彼女の後継者を待っているから。 順番を待つ少女達の、期待と不安に満ちた表情と、 占いをする老婆の、嫌そうで気怠く皮肉めいた表情。 ---------- 巫女のような恰好で、海の上の岩にすくっと立つ「MIKA」。 周りの海では、少女達が遊び戯れています。 彼女が生徒達とこの島に流れ着いたのは十数年前。 ここが世界で唯一の場所なのか、他に生き残った人間がいるのかも分らず、 今まで生き延びできた、と言います。 女性ばかりの島で、生徒達に生き延びる術を教え、 次世代と地球の再生を祈る彼女の姿は、教師ではなくすでに巫女。 ---------- その他にも、 一人で小型飛行機を操縦している「MIEKO」 若手お笑い芸人を最前列で眺める「YOSHIE」 子も孫も捨てて、アメリカで若い彼氏とハイウェイをぶっ飛ばす「YUKA」 自らの墓石の上でポーズを決める、スーパーモデルの「ERIKO」 ダンサーとして砂漠で舞う「MOEHA」 森の奥でひとり琴を奏でる「TSUMUGI」 場末の料理屋で胡弓を弾く「MISAKO」 などなど、バラエティに富んだ「老後」あるいは「祖母」が、並べられています。 ========== 「Fairy Tale」 シリーズ。 「少女」と「老婆」が出てくる童話や物語をモチーフに、 「老婆」役を、醜い仮面を被った「少女」が演じるという作品群。 前回の展覧会の時に詳しく紹介しているので、解説はこちらに譲りますが、 美しくて、残酷で、恐ろしい、それぞれの物語の暗黒面を、見事に表現しています。 ========== 「Windswespt Women」 シリーズは、新作。 黒く彩られた美術館の空間は、とてつもなく巨大(3m×4m)で、 迫力ある、踊る女性の写真5枚に占拠され、異質な雰囲気に満たされています。 ---------- その隅のテントで上映されているのは、ひとつのテントを被って旅をする、5人の女性の姿。 前回の展覧会の時にご紹介した「砂女」の発展バージョンと言えるでしょう。 ---------- 黒いテントが荒涼とした大地を旅し、ある場所に止まったかと思うと、 その中からのそのそと5人の女性が這い出し、激しい踊りを披露し、 再びテントの中に戻って、テントの旅を再開する、というストーリー。 女性たちは上半身裸、という設定で、豊かすぎる胸(若い女)か、 しぼんでしまった胸(老女)の、どちらかをつけ、 髪を振り乱して、激しく踊ります。 ---------- この踊りが、巨大写真のモチーフでもあります。 前回の「砂女」の紹介では『「少女」の「母」からの継承と自立。』 というフレーズを使いましたが、今回は、それぞれが老年にシフトし、 共に旅し、共に踊ることで、継承、交換性、ジェンダー的視線、 といったことを考えさせられる作品になっていました。 ---------- 一緒に観に行っていた父が、この映像作品を見て「意味が分らん」と嘆いていましたが、 素直に「不気味で、残酷で、気持ち悪い」と思えば良いのだと思います。 その不気味さ、残酷さ、気持ち悪さが提示されている意味、 そう感じた理由を問うことから、見えてくるものが、 つまり作者の問いかけたもの、なのでしょう。 私がやなぎみわさんの作品を好むのは、 その作品によって考えさせられること、刺激されることが大だからです。 ========== 同じく国立国際美術館のB3Fでは 『ルーブル美術館展 美の宮殿の子供たち』 が同時開催されていました。 子供たちの無邪気さを描いた作品と、やなぎみわ作品、何と皮肉な対比であることか。 ---------- しかし、ルーブル展の中でも、子供の命は常に死と隣り合わせであったがゆえに、 儚さの象徴でもあった、ということが語られていて、 そういった作品とやなぎみわ作品は、濃厚にリンクするのです。 「生」「老」「病」「死」 お釈迦さまが「四苦」と呼んだ、避け得ぬ「苦」。 特に「生」と「老」について考えさせられる、やなぎみわ作品は、 さらに「性(ジェンダー)」の問題も絡められて、 我々の喉元に、鋭い刃を突き付けるのです。 ========== 『やなぎみわ 婆々娘々!』展 @国立国際美術館 (大阪・中之島) [会期]2009.06/20(土)~09/23(水・祝) [休館]月曜 [料金] 一般 420円/大学生 130円/高校生以下・65歳以上 無料 ※『慶應義塾をめぐる芸術家たち』も同時に観覧可 ※『ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち』展チケットで観覧可 ※無料観覧日:07/04(土)、08/01(土)、09/05(土) 作者:やなぎみわ(http://www.yanagimiwa.net/) ========== 今回は「ルーブル展」とあわせて、父と二人で国立国際美術館を回ったのですが、 帰りに、やなぎみわさんの図録を買おうとしたら、 「そんな怖いのを買う必要があるのか?」と言われました。(買いましたけど。) 「怖い」だけなら買いません。 考えさせられるから、考える必要を感じるから、買うのです。 …いや、行った美術展のほとんどで図録買ってるんですけどね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 19, 2009 01:00:48 AM
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