カテゴリ:仕事
うちの会社のみかちゃんは研修・教育係である。
何回か書いたが、彼女はお客さん相手の応対や気配りは素晴らしいのに、今ひとつ自己制御力が働かない。 最近はしばらく見ていないが、何かの拍子に気づくと、お客さんからイヤなことを言われたわけでもないのに、涙を浮かべてトイレに向かうこともよくある。 「人生いろいろ」を演じている彼女にとっては、私よりもまだまだ若いせいもあるからか、目の前で起こる自分の人生の出来事に対して処しかねて、たまらなくなって泣いていることがよくある。 はっきり言っておじょうちゃんだが、だからと言ってほったらかしておくわけにはいかない。 この間、彼女が中堅スタッフを相手に上級者向けのトレーニングをするというので、事前に「私もオブザーバーで参加していい?」と聞いてあった。 もちろん、彼女に「ノー」という選択をさせる気はない。(笑) 事前にみかちゃんなりに一生懸命、準備しているのは知っていた。 しかし、興味があったのは彼女の資料作りより、彼女がどんなふうに中堅スタッフに対して新しい何かを教えるのかという部分だ。 教えるほうも、教わるほうも生身の人間だから、トレーニングをやっている間に何がどんなふうに進むかは始まってみないとわからない。 私は自分がモノを教える立場だったら、と想像すると結構いろんなことを考える。 もともと私は中学の教師になりたかったのだ。 小さい子供は苦手なので、小学生はダメだと思うし、高校生くらいになると手遅れのヤツも多いので(笑)中学の教師になりたかったし、教職もとって教育実習もやったが、父が「オマエみたいなヤツは絶対に学校でわけのわからん頭の固い古参の教師とか、学校の校長とかとケンカしてやめるパターンやろな」と言ったひとことにひどく納得したことで教師になるのをあきらめ、旅行の仕事に就いた。(爆) ちなみに、教師以外になりたかったのは警察官だった。 みかちゃん主催の、上級者向けの1対1トレーニングをその横でずーっと見聞きしていた私のノートはあれやこれや、いろんなコメントでぎっしり詰まった。 はっきり言って、直したいところだらけのように思えた。 書き留めておいたメモを家に持って帰り、何をどんなふうにフィードバックすれば、みかちゃんのプライドも傷つけずに今後の目標を設定できるかを考え、いくつかの資料を作った。 興味深かったというか典型的だったのは、みかちゃんは知識と経験があり過ぎるために、枝葉の部分からアプローチを試みて行くやり方が非常に多かったことだ。 私なら最初に、その日のお題をぽんと出して「このお題でアナタがイメージすること、感じる印象、どんなふうに自分がそれをやって行きたいか、それをまず聞かせてほしいな」と言うだろうと思う。 たいがいの世の中の仕事の中で要求されるのは「常識7割、ノウハウ+技術3割」というのが持論だ。 うちみたいに個々のお客から電話やFAXでいろいろなことを頼まれる中には当然のことながら、頼んでくる人が何をしてほしいのか、いつやってほしいのか、どこまでやってほしいのかを読むのが先だ。 その「読み」に対して必要なのは、それをどのように手配して行くかということよりも、お客が希望するもののイメージをどのくらい自分のものにできるかなのだ。 頼まれる事柄は膨大にあるから、その一つずつを潰しこみながら解決して行こうとすると気が遠くなるほどの方法論がある。 そういう方法論はやっているうちになんとか身に付いてくるし、探せばもっともっといいやり方は絶対に見つかる。 トレーニングを受ける立場からすると、やっぱり方法論が気になり、それをなんとか身につけたいと思うのかも知れないが、本当はそういうのは枝葉に過ぎなくて(一つうまく行かなくなると立ち往生する)もっと教わる人の想像力・・・お客の気持ちのベースはこれだから、次に進むステージはここのはずだ・・・をあっちからもこっちからも引っ張って延ばして行くことのほうが大事だと思う。 方法論とか、条件だとか例外だとか、そういう細々したルールを教えるだけで根っこの観念というものに辿り着ける人も世の中に多少いるにはいるが、それよりもやっぱり根本の想像力や常識や「普通、人間だったらこう考えるでしょう?」みたいな大原則から枝分かれさせて方法に持って行くほうが常道のように私には思える。 みかちゃんがもう一つ、考え方を変えなければいけないのは、自分が作った資料を最初にスタッフに配ってしまうこと。 人間、誰でも眼の前に資料が配られたら当然そっちに眼が行ってしまうし、それを眼で追うだけでわかったような錯覚を起こす。 みかちゃんは資料を配り、それを一つずつ読み、時々自分の経験した仕事のエピソードなんかを入れて進めて行っていたが、私ははっきり言って退屈だった。 私も知っている内容をみかちゃんが説明したからというより、みかちゃんが「私も知っている内容をどんなふうに料理してくれるのか」という部分で楽しくなかったからだ。 どんなトレーニングや講習でも、全部、内容を覚えさせようなんていうのはどだい無理な話なのだ。 しかし、そうだとしても、あの時のあのトレーニングで聞いたあの部分だけは絶対に忘れない、と受講したスタッフが思ってくれたら、そのトレーニングの7割は成功じゃないだろうか? 私は、この研修・教育係がえりこちゃんみたいに打たれ強い人だったら、もっと厳しいフィードバックをしていたと思うが、みかちゃんが今、その係であることを否定してはいけないし、彼女には彼女のやり方の中で成長してもらわなければいけない。 実は、みかちゃんが研修・教育係になる前は、私の片腕のひろみさんがそれをやっていた。 ひろみさんはいろんなところからアイデアを見つけ、資料を作り、予定のない講習まで自発的に全部こなしていこうとしていたが、彼女が昇進した後でそれを自分がやらない立場になったために、ひろみさんはみかちゃんのやり方に歯がゆいものを感じている。 みかちゃんは私に「ひろみさんと私とはやり方が違うし、ひろみさんはどんな時間からでも何かヒントを見つけるのがうまいですが、私はやっぱり頭をまっさらにして、一からいろいろ集中して考えたいんです」と言った。 私もひろみさん型なのだが、ここでそれを押し付けたが最後、みかちゃんはまた悶々とするだけで逆効果だとわかっていたから、こう言った。 「ひろみさんのことは気にする必要はないよ。人それぞれでアプローチは違うし、教わるほうもお客さんもいろいろ。 みかちゃんが『こうしたい』と思ったら、ひろみさんがどう思おうとみかちゃんの思う通りにやればいいから。 でもね、みかちゃんのそのやり方の中では絶対に昨日より今日、今日より明日、を目指すことは忘れないでほしい。 今、みかちゃんがやっている仕事は試験に受かって、自分もトレーニングを受けて、ここ最近で初めて動き始めた自分のプロジェクトなんだからね。 誰でも『やります』って手を上げればやれるわけじゃないから、この仕事についてのプライドと自信はなくすなよ」 ホメながら、持ち上げながら、しかし改善してほしいことははっきり言った。 それでもみかちゃんは今日の私とのセッションには満足し、きっと肩を押された気になってくれた感じがあった。 人の成長する姿を見ているのはおもしろい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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