時効の援用(エンヨウ)と時効の中断
弁護士に対して理論武装が不十分な隣接法律家は、弁護士との間でトラブルになることがあるのは既にお話した通りです。 当事務所は開業して6年になりますが、幸いにして弁護士とトラブルになったことはありません。因みに、大学1年から30年来の付合いのある友人で、現在弁護士をしている者は30人位だと思います。 ところで、開業当初、Aさんから次のような相談がありました。(実際のご相談内容を多少、変更・修正しています。) Aさんは13年前、家庭裁判所でBさんと調停離婚しました。慰謝料はAさんの負担。 調停証書は確定判決と同一の効力があります。確定判決で得た債権は一般の民事債権と同様、10年間で消滅時効にかかります。 Bさんは逆にAさんに借金があったそうです。その借金の返済の請求をオソレて結局、慰謝料をAさんに請求しないまま、13年の年月が流れました。 その後失業し、お金に困ったBさんが調停証書の存在を思い出し、C弁護士に相談。 Bさんの代理人として弁護士Cの名でAさんに内容証明が来ました。Aさんが慌てて当事務所に駆け込んできました。Aさん 「先生、私はBに慰謝料払わなくてはいけないんでしょうか?10年経ったら、時効で払わなくてもいいって、ネットに書いてあったんですが・・・?」私 「確かに、一般の民事債権の消滅時効期間は10年ですよね。」Aさん 「C弁護士は、弁護士なのにそんなことも知らないんでしょうか?!」私 「弁護士が知らないなんてことは有り得ないでしょうね。」Aさん 「それなら、C弁護士は何故、Bから頼まれたとは言え、内容証明を書いてきたのでしょう?内容証明代が欲しかったのでしょうか。Cってキタナイ奴ですね。Bがカワイソウ・・・!」 (離婚したとはいえ、流石に、元夫婦だな~と変な感心を私は内心してしまいました・・・。)私 「 いえいえ、C弁護士は内容証明代が欲しかったわけではないでしょう。 C弁護士のやり方は感心できませんが、流石に弁護士だけあって、法律を良く知っている方のやり方だと思いますよ。」Aさん 「どういうことですか?」私 「日本の民法では、時効は期間が満了しただけでは不十分で、Aさんが『時効の利益を受けます』と意思表示をしないと時効は完成しないんです。 」 「時効の利益を受けることを『時効の援用(エンヨウ)』と言います。 ですから、『時効期間が満了しているので、時効の援用をします』と回答すれば、相手は手も足も出せなくなります。」Aさん 「援用してしまえば、それまでなのに何故C弁護士は内容証明を私に出してきたのですか?」私 「弁護士から内容証明が来ると、一般の人は、時効の利益を援用する前に、債務の存在を「承認」してしまうからです。」Aさん 「どういうことですか?」私 「そもそも、時効制度は『権利の上に眠っている者を法は保護しない』という考え方や、年月が経ってしまうと証明が困難であることから認められている制度なんですよ。 Aさんが時効を援用する前に、債務の存在を「承認」してしまうと、その時点で証明は困難ではなくなっているわけです。(時効の中断) そうすると、Bさんは弁済されることを「期待」してしまいます。 Aさんがその後に時効の援用という制度を知り、援用してもBさんの期待を裏切ることになります。それでは、信義誠実の原則に反するということになります。 従って、最高裁判所は承認後の援用を原則的に認めてないんです。 Cは弁護士ですから、この判決は当然知ってます。それを狙って、Aさんに内容証明を出してきたのです。」Aさん 「先生にご相談して本当に良かったです。有難うございました。この内容証明の回答書、先生にお願いします。」私 「『時効の利益を援用します。』と一行書くだけですから受任出来ませんよ。ご自身で書けば、実費だけで済みますからご自身で書いた方がいいですよ。」 「郵便局から出す時に『配達証明付でお願いします。』っていうの忘れないで下さいね。」 今も相変わらずこんな調子なので、未だに貧乏暇ナシ事務所です。 (I・タウンページ) http://ad.itp.ne.jp/0466887194(事務所HP)http://homepage2.nifty.com/0466887194山崎行政法務事務所0466-88-7194