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贅沢な昼寝

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Nov 12, 2008
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カテゴリ:愛玩動物
Feb25,2006

はじめて飼った猫亡き後、遠くからでも猫を見つけ出せる能力が備わった。ある日、微かな猫の鳴き声が耳に届いた。その方角へ歩いていくと、小学校の駐車場に真っ黒い猫がうずくまっていた。近寄っても逃げないので触らせてもらう。飼い猫だろうか。首輪はしていない。腹の部分がぺしゃんこだった。「おいで」というと私のあとをついてくる。私が玄関に入っても、黒猫は中には一歩も入らず、外できちんと座っている。餌をやるとぺろりと平らげた。そしてどこかへ帰っていった。

翌日、玄関でニャという声が聞こえたので出てみると、外に黒猫が座っていた。やはり一歩も入ってこない。餌をもらいに来たのか。
そんな事が数日続き、ある日黒猫に向かって「入れば」と言ってみた。初めて敷居を跨いだ。

飼い猫かもしれないので写真を撮りポスターを作った。ちょうど金井美恵子の「迷い猫あずかってます 遊興一匹」を読んでいたのでポスターにも表題と同じ文句を書いた。市内の獣医とペットショップ、最初に出会った小学校近くの電柱に貼った。

外でこの黒猫に会うと必ず大声で鳴いてくれた。まるで歌うように鳴き、駆け寄ってくる。からだを私の足にすりつけ挨拶をすると、またどこかへ散歩に消えるのだった。毎日うちへ帰ってくるようにもなった。
ポスターの効果は全くなく、どこからも電話はかかってこなかった。それでもどこかにいるかもしれない飼い主の心配を思うと、この猫に正式に名前を付ける気がしなかった。黒猫だからクロちゃんと呼んだ。それはあくまでも仮の名だという意識で。

数ヶ月して黒猫の様子がおかしくなった。腹が異様に膨れている。獣医に診せると、もはや重篤な状態で長くはないと言われた。医師の言う時期が近づくにつれ、徐々に体力も食欲もなくなっていった。時折水を飲むだけ。バスタオルの上に横たわって、静かに息をしている猫を見つめる他なかった。
最期の日。横たわった猫を何時間見つめていただろう。小さな声で一声鳴いて息を引き取った。

黒猫は庭の片隅に深い穴を掘って埋め、そこに花を植えた。それからポスターを回収しに行った。






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Last updated  Nov 29, 2008 05:08:11 PM
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