「善き人のためのソナタ」
シネマライズ社会主義体制下の旧東ドイツで、国民を監視していたシュタージ(国家保安省)と監視される芸術家達の物語。アカデミー外国語映画賞にもノミネートされたこともあり、初日の初回にリキ入れて1時間前から行ったのに、あんまし人いなくてどうかと思いましたが、上映時にはほぼ満席になってた。やはり年齢層が高く、男性も多い。原題は「Das Leben der Anderen」で直訳すると「もう一つの人生」とか「違う人々の生活」とでもすればいいのかな。Leben=Life、Andere=Others(あちら側の人間)で、尋問や監視すべき対象としてシュタージが仕立て上げた、敵である西側と関係を持つ人々を指しているらしい。邦題から受けるイメージほど全編に音楽が流れてるわけではなく1曲だけ、しかしとても印象的な使われ方をしている。尋問テープを教材にシュタージを育てる機関や、西側思想に傾倒した芸術活動への弾圧、疑わしき者は家ごと盗聴する旧東ドイツ政府の恐ろしさ。2度までも非人道的な歴史を築いて来たドイツ人の精神性って何なんだろう・・・でもこれが人間の本質なんだよな。そしてまた、善性に還ることが出来るのも。無表情なシュタージから人間的な心を取り戻し、変わって行くヴィースラー大尉がいい。劇作家のドライマンと恋人の女優クリスタの寝室を盗聴した後、娼婦(デブり具合がまたリアル)を呼んだり、密かな想いを抱くクリスタのために大胆な行動を取るなんて、可愛いとさえ思ってしまった。クリスタがまた女の性を感じさせていいんだなぁ。大臣に関係を強要されたり、尋問されて女優生命とドライマンを秤に掛けたり、でも最後には・・・と、政治に運命を翻弄される様がもの哀しくも艶っぽい。食堂での冗談などユーモアもあるが、全体的に地味な色合いの渋い映画。盗聴器を仕掛けるところなど、33歳の監督の作品とは思えない武骨な作りがたまらない。これ、大学の卒業制作ってウソだろ~?フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は意外や西ドイツ出身で、「グッバイ、レーニン!」は本当の旧東ドイツを描いていないから嫌いらしいけど、私はあの映画大好きだから微妙だな。笑いの裏に込められた悲しみに、より深く感じることもあるじゃない・・・。ただ、この手の映画にしては少々長過ぎた。「トンネル」などのように大きな山場があるわけではないので、2時間以内にまとめて欲しかったかな。あとから何度も○年後って続くのもねぇ。個人的には一番ぐっと来た壁崩壊で終わらせても良かった。全てがあっけなく崩れ落ちてしまったのを知った、ヴィースラーの表情に胸を締め付けられたから。国家に忠誠を尽くし、彼自身も国民も大き過ぎる犠牲を払って来たというのに・・・。しかし、その後のドライマンが自らの個人情報を調べに行くのも興味深かったし、この結末がないと救われないか。ラストのセリフが効いてる。ヴィースラー役のウルリッヒ・ミューエは旧東ドイツの俳優で、実生活でも10年以上、女優の妻に密告されてたんだって・・・ドライマン役のセバスチャン・コッホ(禁煙さんだ!)は「ブラックブック」、クリスタ役のマルティナ・ゲデックは「素粒子」と、これから公開される映画にも出てるよ。後から思ったんだけど、ドライマンとクリスタは西と東に別れてしまった、ドイツの象徴でもあるのかもね。「善き人のためのソナタ」公式サイト心に響く映画 『善き人のためのソナタ』追記:封印された旋律を奏でよう『善き人のためのソナタ』ミューエ氏の過去は壮絶だな・・・Copyright © 2007 Yahoo! Deutschland GmbH. 不謹慎かも知れませんが・・・どっかで見たと思ったら、これだ追記:この作品が第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しました卒業制作でオスカー取っちゃうなんて凄いなぁ~。なんと、謙さんとドヌーヴがプレゼンターだったそうじゃないですか。Herzlichen Glueckwunsch, Herr von Donnersmarck!OSCAR.com - 79th Annual Academy Awards - Winner:Foreign Language Film再追記:謙さんとドヌーヴが紹介したのは、トルナトーレ監修の外国語映画賞50周年受賞作品トリビュート・クリップで、オスカーを手渡したのはケイト・ブランシェットとクライヴ・オーウェンでした。監督、禁煙さん、ミューエ氏の大喜びな様子が微笑ましかった~