塵(ちり)も積もれば
こんな話があったとします。ある日、Aさんのもとに一通のメールが届きました。Aさんが確認すると、送り主は「匿名」を名乗り、使い捨てのメールアドレス、いわゆる「捨て垢」からメールを送信していました。届いた先は、Aさんがどこにも公開していない、ほんの一握りの人しか知ることのない個人のメールアドレスです。内容は「ネットマナーを守れ」というもの。メールを読み進めていくと、「あなたは精神を患っている」「ご愁傷様」といった言葉が書き連ねられています。そこでAさんは、匿名さんが誰なのか思い当りました。ところが、匿名さんはAさんのアドレスを知りません。ただ、Aさんのアドレスを知るほんの一握りの中に、共通の知り合いがいることにAさんは気づきます。その共通の知り合いさんはAさんのことを快くは思ってはおらず、Aさんは、匿名さんがその知り合いからメールアドレスを入手したと悟ります。匿名さんにしてみれば、Aさんのネットでの言動はあまりにも目についたのでしょう。気になる言動を注意したり、アドバイスしたくなることって、きっと誰にでもあるのではないでしょうか。匿名さんもまた、Aさんの言動に対して、どうしても、一言言わねば気が済まなかったのかもしれませんね。とはいえ、個人情報を本人の断りなくやり取りするのは、このケースでは個人情報保護法に触れないまでも、それに値する行為。たとえ話に過ぎませんが、これを、どうみるか。たぶん、それは人それぞれだと思います。だから、あくまでも私個人の考え。Aさんの言動はよほどひどかったのでしょう。マナーの悪い行為は、決して、ほめられるものではありません。同時に、匿名さんの行為もまた、マナーを守れと言いながら、自分はどんなことをしてもいいともとれなくもないかな、と。フジテレビ系列で放送中の『信長協奏曲』。現代の高校生・サブローが戦国時代にタイムスリップして、思いがけず織田信長として生きることになるという、石井あゆみさんの漫画が原作のドラマです。その第4話の内容を少し抜粋します。ネタバレを含みますので、ご注意を。軍師・竹中半兵衛は幼き日、戦のない国を夢見ていました。しかし、戦国の世では絵空事にすぎず、想いを抱くことをやめてしまいます。そんな半兵衛に、「戦のない時代は必ず来るよ」とサブロー。そして、戦のない未来を切り開こうと心に決めます。半兵衛はサブローに、それがどれほど険しい道かわかっているのかと問いかけます。サブローの答えは――「塵(ちり)も積もれば……いつか道になるかもよ」サブローは、臣下のうらぎりに対しても、とても寛容な心で接します。そうしたサブローの言葉。たとえば、それがドラマの中の出来事でも。たとえば、それがどんなに絵空事でも。これもまた、あくまでも個人的にですが、現代社会でも、例にあげたような、いわゆる小さな争いを目にすることが多くなったような気がします。サブローの言葉には、現代にも通じるメッセージのようなものがこめられてるのかもしれないな、と感じたのでした。