2010401 ランダム
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『沖田総司 見参!!』

『沖田総司 見参!!』

稽古が始まった。
鬼も裸足で逃げ出すという、羅漢塾の猛稽古に生王は必死に耐えていた。
基本稽古では、必死に皆を真似て動いた。

「次!ワンツーから顔面アッパー!!」
「オッス!!」
「アホか!そんなアッパーが効くかーー!もっと脇を絞って打ち上げるんや!!」

そう言いつつ、生王にアッパーを喰らわすドラゴンの道!

「オオッス!!!」

稽古となると奇妙なほど真面目になるドラゴンの厳しい指導を受け、既に満身創痍の生王であった。

「次!ワンツーから中段回し蹴り!!」
「オッス!」
「アホかあ!そんな低い中段があるか!それはローキックや!!」

そう言いつつ、生王に中段回し蹴りを喰らわすドラゴンの道!

「オオッスゥゥゥううう。」

既に泣きが入っている生王!

「次!ワンツーから肘打ち裏拳下段払い逆突き!!」
「オッス!」
「アホかあ!そんなコンビネーションがある訳ないやろ!これは冗談じゃあ!!」

そう言いつつ、生王に肘打ち裏拳下段払い逆突きを喰らわすドラゴンの道!

「オオッスゥゥゥうるうるうる。」

今にも崩れそうな生王に沖田の救いの手が差し伸べられた。

「ドラゴン先輩、今のは、やり過ぎじゃ?」
「わかっとるがな、シャレや、シャレ!シャレで死ぬヤツなんかおらんわ。」

流石にバツの悪い思いをしたのか、後ろを振り向き全員に声を掛けて誤魔化すドラゴン。

「一旦休憩してからミット稽古や!」
「「「「オッス!!!!!!」」」」

塾生達が各々に休憩しているとき、既に全ての力を使い果たした生王は、道場の隅でノビていた。

「生王さん、大丈夫ですか?」
「あ!沖田さん!!もう、私は限界です!!助けて下さい!」
「分かりました。私に任せて下さい。」

沖田の力強い言葉に、思わず涙をこぼして喜ぶ生王。

「有り難うございます、この恩は一生忘れません!」

そう言って立ち去ろうとする生王の肩を沖田がガッシと掴んだ。

「何処に行くんです、生王さん?」
「何処って?トンズラするに決まってますやん!」
「稽古中に抜け出しちゃいけませんよ。」
「だって、さっき私に任せろって言ったじゃないですか?!」
「はい、だから生王さんのミット稽古のお相手は、私がさせて頂きます。」
「ハイ????」

どうやら、沖田の辞書には、稽古途中のトンズラという言葉は載っていないらしい。

「お、沖田さん!私はもう死にそうなんです!!」
「分かりました。」
「いったい、どう分かったんですか?」
「私と組めば、手加減してあげられますよ。」
「おお、本当ですか!良かった!!やっぱり沖田さんは良い人だったんですね!良い人の皮を被ったドラゴンの道かと思いましたよ。」
「手加減して欲しくないようですね?」
「ご、ご、御免なさい!宜しくお願いします!」

ちょっと、ビビリながらも心安らかにミット稽古を始めた生王であった。
が!

「ぐげぇぇ!!!」

悲鳴とも苦鳴ともつかない声を上げ、吹っ飛ぶ生王。

「生王さん、もっとちゃんと持たないと駄目ですよ!」
「ちょ!ちょっと沖田さん!!手加減忘れてますよ!!」
「え?これ以上手加減するんですか?」

どうやら、沖田は約束通り手加減していたらしい。
が、それでも生王には受け止め切れないとは!!
沖田総司!一見、イケメンの優男に見えて実は、かなりのパワーファイターであった!

「大丈夫です、生王さん。気合いを入れれば受け止められます!」
「いくら気合い入れても無理じゃあああああああああ!!!!!!」

ミット越しに受けた数々のダメージのため、もはやトンズラする力さえも使い果たした生王。
そろそろ稽古終わってくれないかな、と都合の良い期待をしてみるが・・・・・、

「集合!!これから組み手をする!!」

淡い期待は一瞬の内に破られてしまった。
ふと、見上げたその前に立っていた姿は・・・・・?

「生王さん、宜しくお願いします。」

また、こいつかい!!!!!
逃げようと後ろを向いた瞬間、

「始め!!」

と、号令がかかった。
こうなったら、説得工作有るのみ!!

「沖田さん、沖田さん!私は体力のないオッサンです!技術もないので既に凄いダメージを喰らっています。このままでは生きて帰ることが出来ないので、組み手だけは、ライトライトライトスパーでお願いします!!」
「分かりましたよ、軽くやりますから。」

軽くと言ってもさっきのミット稽古の例も有る。
ここは、確実に生き残るために更に念押しの言葉を伝える生王。

「沖田さん、やっぱり○止めでお願いし、・・・・はぐぅうう!!」

「始め!」の掛け声と同時に、沖田が放った、中段回し蹴りとカギ突きが生王のレバーを捉えた!!!

言葉も出せず、悶絶する生王!
無意識に繰り出した牽制の攻撃で敢えなく倒れ伏す生王を訝しげに眺める沖田。

「生王さん、ふざけてないで立って下さい。稽古になりませんよ。」




「沖田のヤツ、あれやから怖いねん。」

離れた場所で、ドラゴンの道が塾生の一人と会話していた。組み手はどうした?

「あいつパワー有るから、手加減してるつもりでも結構効くねんな!」
「また、手加減してますよ~!っていう顔して近づいてくるからタチ悪いしなあ。」
「しゃあない、これじゃ稽古にならんから捨ててくるわ。」

そう言って、ドラゴンの道は、延びている生王を掴んで、窓から近くのどぶ川へと放り投げた。

放物線を描いて川へと落下する生王。
もはや、彼が再び立ち上がることはないだろう。
さようなら、生王!


・・・・・・・・・・・・・という感じで死んだ振りして川に流されて、その場を逃れたんですよ。」

「そうか、君も苦労したんだね。」

あれから数週間後、死んだ振りして羅漢塾から脱走した挙げ句、無銭飲食でサラ金から借金する事になった生王は、今、人生の酸いも甘いも噛み分けた金融会社の社長、中古氏の元で、借金を返すべく身を粉にして働いていた。
たまたま、作ったパンが中古氏のお気に召したため、店の雑用係りに雇われたのである。

「でも、君にパン以外にそんな特技があったなんて知らなかったよ。」
「へ?特技?そんな話しましたっけ?」
「君が組み手の相手をしてくれるなんて知ってたら、雑用係なんてさせなかったのにね。」

そう言って、連れて行かれた中古車センターの裏手には・・・・・・・空手道場が!!

「ちょ!ちょっと待って下さい、ちゅうこさん!!!」
「間違えちゃ駄目だよ。僕は中古社長だよ。」
「しゃ!社長!!なにをさせる気なんですか?!」
「簡単なことだよ、僕と僕の彼女のスパーリングパートナーをして貰いたいだけさ。」
「嫌やあああ!!!!組み手なんかしたくないいいいい!!!」
「ライトライトライトスパーだから大丈夫さ!」
「ウソやああ!そんなこと言うて、ボコボコにして簀巻きにする積もりなんや!!」

「なに、ソイツ?むっちゃ弱そうやん?」

と、道場の脇でジャンピングスクワットしていた女性が言った。

「椎椎、我が儘言わないで、これで我慢しておくれ。」
「嫌やあああああ!!!こんな凶暴そうな女と組み手したら死んでしまう!!!」

必死で抗う生王の両脇を、中古氏と椎椎がガッシと捕み、達人道場へと連行して行きましたとさ。

めでたしめでたし?


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