第20話/最高の舞台で最高の南部杯を! テシオ編集長 松尾康司
『サクセスブロッケン、秋初戦は南部杯』。この新聞記事を見て“ドキッ”ときた。続いて『エスポワールシチーも南部杯へ』で“ドキドキッ”ときた。 それを見た瞬間、栗東トレセンの取材に行きたい、行かなければと思った。言うまでもなく、この2頭が世代交代の主役。ハイレベル7歳カネヒキリ、ヴァーミリアンを打ち破ったのだから凄い!のひと言。 これからもダート戦線をリードしていくのはサクセスブロッケン、エスポワールシチー。3歳のニューウェーヴたちも徐々に台頭してきているが、まだまだ2頭の領域ではない。今の勢いそのままに両馬とも栗東トレセン所属。3連覇の偉業を達成したブルーコンコルドも同じ栗東もラッキーだった。 それと前後してジョッキーが語る『南部杯優駿伝説2009』企画も動き始めた。以前から一度、栗東取材をしたいと思っていたし、もう行くしかないと心決めた。 身近な人はご存知だろうが、そうなると深~い深~いブリンカーが自然着用となって一本道。戌年生まれがいきなり猪へと変貌し、よく“また暴走した”と言われるほど突っ走ってしまう。これが性分だから仕方がない。 その後、いろいろ準備と手続き作業へ入ったが、みなさんが暖かく親切に動いてくれ、協力してくれた。この場を借りて御礼を申し上げます。 栗東へ入ったのは29日、火曜日。競馬ブックさんのご好意で独身寮の一室を借り、翌日朝4時半に集合し、いざ栗東へ。まず取材陣の多さに驚き、またワクワクした。ちょうどGIシリーズの開幕週・スプリンターステークス追い切り日に重なり、いつも以上に取材陣が多かったのだそうだ。 みんなスプリンターズの取材で駆け回っているのだが、オレはまったく関係なしに、2週間後の南部杯取材とジョッキーたちによる南部杯の思い出取材。まさにKY状態で右往左往しながら動き始めた。 しかし、スムーズに取材ができたのは週刊「競馬ブック」編集長・村上和己さんが事前にいろいろと手配してくれたから。何時に行けば誰彼の取材ができる。石橋守騎手とは朝5時半、スタンドで会える。エスポワールシチーの安達調教師は何時に約束したからとか、藤原英昭厩舎は午後3時半からとか、すべて手配済みだった。 まず石橋騎手が声をかけてくれた。「ブックの村上さんに取材依頼を頼まれましたけど、松尾さんですか?」、「ハ、ハイ。松尾です。よろしくお願いします」 石橋騎手はライブリマウントに関する一つ一つの質問に対し、丁寧に答えてくれた上、南部杯を振り返って「地元のヒーロー(トウケイニセイ)を破ってしまって夢を壊してしまったんじゃないかな」って気遣いする。 南部杯優駿伝説では触れなかったが、武豊騎手らと4人で高知のイベントに参加したことについて「あれはボランティア。自分らが行って高知が盛り上がってくれればと思ったから。赤岡君たちが頑張っているのを応援したかった」と優しさ、誠実さが言葉からもヒシヒシと伝わってきた。 続く取材は四位洋文騎手=アグネスデジタル。ふじポンがマネジャーの植田さんに連絡してくれてインタビューが実現した。朝8時の待ち合わせで直前にグリーンチャンネルの取材を受けていたが、きっかり8時には「じゃあ、このジョッキー控え室で話をしましょう」とエスコート。 しょっぱなに香港カップの話を振ってみたら表情を崩し、笑顔で話し始める。記事でも書いたが、ステイゴールド、エイシンプレストンと日本馬が2連勝して相当プレッシャーがかかったらしい。 本人は「神風が吹いた」と語ったが、まさにその表現がピタリ。日本が香港シャティン競馬場を完全にジャックし、駆けつけた日本応援団は驚きの3連発で盛り上がること盛り上がること。そこだけ周囲から完全に浮いていたが、四位騎手がまるで昨日のことのように語ってくれたので、あの時の興奮と感動が鮮明によみがえってきた。 最後にふじポンから預かったおみやげを手渡すと「おぉ、ふじポンか。頑張っているみたいだね。彼女は元気なのがいい」と絶賛。すでに取材用に写真を撮っていたが、ふじポンのみやげを手にして、もう1回お願いします―と頼んだら快く引き受けてくれた。 ふじポンが四位騎手のファンになった理由が分かった。最高の笑顔で写真に納まってくれた。 安藤勝己騎手のインタビューにはちょっと苦労した。ちょうどスプリンターズステークスの有力馬ビービーガルダンに騎乗するため、多数の取材陣で包囲網がガッチリ。どんな質問に対してもイヤな顔をせず、しかも包み隠さず率直に答えてくれるため、取材陣は安藤勝己騎手からずっと離れない。 オレの質問はどう考えてもお門違い。取材が空くのを待ち続けたが、2歳馬の連続調教などもあり、かなり難しそう。9時の共同記者会見後なら何とかなると期待を抱いたが、JRA職員がしっかりガードしてスタンドから立ち去っていった。 だからアドマイヤドン、ユートピアのインタビューを一時は諦めた。 が、競馬ブック編集部に夕方5時に戻ったら、村上編集長から「安藤君はどうでした」と聞かれ、「すごく忙しそうでした」と返答したら、「じゃあ携帯電話にかけてみよう」と即、行動。 自宅に帰った安藤勝己騎手の取材はそれで実現した。いまさらアドマイヤドン、ユートピアでもないだろうと思いながら質問すると、ストレートで返ってきた。これだ!って答えは「アドマイヤドンに出会って自分の競馬観が変わった。競馬は奥が深い」 安藤勝己騎手をして「奥が深い」と言わせる競馬。オレ自身が競馬の魅力に取りつかれた理由を、安藤勝己騎手がズバリ直球で語ってくれた気がして震えた。 失礼覚悟で書くが、「ユートピアがフォーティナイナーの代表産駒になりました」と向けてみたら、あっさり「そうか」でお終い。電話を切ったあと、原稿を書いている時もその「そうか」がおかしくて、おかしくて。 幸騎手=ブルーコンコルドの取材は東京盃(ヴァンクルタテヤマ)を終えた直後、東京駅までのタクシーの中。朝早くからずっと遅くまでコース、運動場にいて馬にかかりっきり。 だから村上編集長が「東京盃終わりの8時40分に、この電話馬号にかけてくれでば大丈夫です」の指示も納得。それで42分頃にかけてみたら出なかったので「まだ帰り支度中なんだな」と一旦切ったら、1分後にコール。 あわてて電話に出て「こちらからかけ直します」と言ったら「いいですよ。このままで」。その言葉に甘え、いろいろと質問した。東京盃直後で疲れていただろうし、3着に敗れたにもかかわらず、幸騎手は穏やかな声で坦々と答えてくれた。 内に秘めた闘志は間違いなくあるだろうが、気負いがなく自然体な語りに思わず感動してしまった。 レース当日でも調教をこなしてから競馬場へ行くことも―の話もなるほど、と納得した。幸騎手とも出会えたブルーコンコルドはつくづく幸せな馬だと思った。 もちろん今年の南部杯取材もしっかりやってきたつもりだ。そのあたりは割愛させていただくが、わずか2日間でもびっしり凝縮された取材ができた。多分、一生の思い出となるだろう。 15頭の優駿たちよ。新たな南部杯伝説を期待しております。最高の舞台で最高の南部杯を!