やっと元請けの社長がベースを引き取りに来た。そのまま帰ろうとするので呼び止めた。「次の仕事はいつ入るのか」そして「石油価格の暴騰で、材料費が軒並み値上がりしている。しいては現在の単価も上げざるを得ない。」と正直なところを打ち明ける。「どれだけ単価を引き上げてほしいのか」と訊いてきたので「材料費はおよそ20~30%値上がりしている。細かい部品は別としても、本体だけは材料費の値上げ幅に応じた単価にしてもらいたい」と要望、後で具体的な数字を提示するむねを伝えた。
たったこれだけ云うのに、ずっと以前から悩んできた。監督にはそれとなく打診していたのだが、社長の多少面食らった様子から監督からはあまり伝達されていないことが分かる。苦しいのはお互い様、単価変更の交渉は互いの妥協案を前提に進めなければならぬと・・・そのことで悩んでいたのだ。
地元大手の仕事を一手にやってきた父の存在を改めて振り返る。あれだけの仕事をしながら、父の死後は借金だけが残った。そのために会社を継いだ母は嘆き、嘆き続けて・・・そして癌で死んだ。さぞ悔しかっただろうと、思う。息子の私に甲斐性がないばかりに苦労させてしまったと・・・それにも増して母を嘆かせたのは、父が死ぬと手の平を返すように去って行った同業知人の保身だった。某社長にカネを貸してくれと泣き付かれ、母は銀行から借金して工面したものだった。その社長の会社はいま繁盛していて、去年あたり訪ねて行ったことがある。本当は資金を借りたかったのだが「どんな仕事でもやりますから・・・」云々の頼みごとになった。しかし、笑って断られた。「何とかカネを貸してほしい。それがないと会社が人手に渡ってしまう」必死にすがったあの時の社長と、いま笑っている顔がダブって見えた。私はそんな自分の動揺を抑えようと笑って、そして「この不景気にはまいりますね」と世間話に替えて・・・笑って、そして去った。俺はバカだ、土下座してまで必死に仕事を頼み込まなければならないのに、必死に自分の動揺を取り繕うとするなんて・・・必死の意味がまるで違うのだ。
貧乏生活がこう長いと、だんだん絶望感に閉塞性が加速していく。友人に「猫としゃべってろ」と冗談を云われてヘラヘラ笑っている自分・・・自虐的な笑いしか浮かばない今、ときに晴ればれと爽快に笑ってみたいものだ。今日は取り留めの無い話になった。明日には元気を・・・出そう。
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