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テーマ:今日の出来事(292677)
カテゴリ:小説
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敗戦国家と言っても色々ある。隣の星系に色々持って行かれたりするところや、 資本を乗っ取られるケースである。 ライガーでは、どうやらそう言ったケースが多いようで、ドッグ周りは静かであった。<椿姫>は、<ペルシアン・キャット>と並んで係留した。 どっちが行くかは勿論、<ペルシアン・キャット>側である。 「はい、何とかの雫」 「ひゃ~、帰ってきてよかった~」 「あの時、<ペルシアン・キャット>が来てくれて、助かりましたよ」 「本当だったら、適当な石ッころにくっつけてしまおうかと思ったくらいだから」 またも石ッころである。しかも今回はランダム打ち。ペイントも付けられないのでは、「今回は発信機付きなのよ」 なるほど、そこまで準備していての、<ペルシアン・キャット>への狙撃だったのか。 運がよかったとしか言いようがない。 「あたしの運の強さね~」 などと椿は言っているが、単なる偶然である。絶対に偶然である。認めたくない~! 「せっかく戻ってきて何だけど、衣装に合うのがないので、しばらくはお休みね」 「今回は、どうやって盗んできたんですか」 「宝石が飾ってある床下、つまり天井に爆弾を仕掛けて、落ちてくるのを待ってたの」 「ド派手~~~」 「俺たちのイメージから、完全にドジっぷりが消えたぜ」 そう、これが本当の“千年庭園”なのだ。 宇宙港へ入ってもエアカーを乱れ走らせ、空港を一時閉鎖させてから、自分だけお先に~である。 しかし今回は、パトロール艦の山に囲まれて、運が尽きたかと思われたが、これは事前に配置されていたものであろう。“千年庭園”は予告状は出さないが、人気の宝石を狙うので守備固めをされていたのだろう。 「さて、俺は積み荷の方へ行ってくるぜ」 「あたしたちは、騒ぎまくろう~~~」 同じ工場であっても、活気の無さを感じる。 これが敗戦国というのだろうか。 勿論市民レベルまで行けば、今日を生きるために色々やっているだろうが、ちょっと高いところから見ている裕には、計り知れなかった。 宇宙船のエンジンを下ろしている最中、周辺は何事もなく、特に変わった様子もない。 考え過ぎか。 そう思ったところへ気付いたのが、積み荷がないと言うことである。 敗戦国だけに、輸出がないのだ。 しまった、と裕は思った。 工場の詰め所へ行って何でも良いから、積み荷がないか聞いてみる。 しかしなかった。 あああ、“千年庭園”と同じになってしまう~~~。 そこへ、内務省から連絡があった。 内大臣の亡命である。 戦争犯罪人から逃れるための手段であろう。 今回の戦争で、一番罰せられるのは、アンクード連合のトップだが、付いた側の高官まで裁かれるのはいかがなものか、と言う気がして成らない。 もう工場まで来ており、裕は立ち会うことになった。 「初めまして、モナコ・ドワーニです。そちらが妻と娘です」 「これは内々のはなしですよね?」 「勿論そうです。おおっぴらにやると、反乱が起きてしまう」 「行き先は決めてらっしゃるのでしょうか」 「太陽系国家フェルザーに決めておる。話はこれからだがな」 「では我々は、あなた方をフェルザー、まで送り届ければいいと」 「そう受け取ってもらって結構だ」 そうなったら、速く出立したいところだが、エンジンの搬出はまだ続いているし、 美奈が帰ってこないので、出たくても出られないのだ。 そうこうしているうちに、人だかりが出来はじめていた。 どこからか、情報が漏れて、亡命することがばれてしまっているのだ。 銃を手にした民間人たちが、大勢船の周りに集まってきた。 ここは、強行突破しかない! <ペルシアン・キャット>は、台座から後退し、エンジンの搬出を無理矢理終えた。 荷受けのサインなど、必要があるが、とても出来る状態ではない。 あとで請求するとして、発進状態に入った。 「警告、警告<ペルシアン・キャット>は正規の手続きを踏まず、出国しようとしています」 だったら、銃器を持った連中を排除してくれよ、と裕は思った。 「エマージェンシーだ、銃器を持った連中に襲われている。ここから抜錨しても良いか」 「了解した」 裕は荷受会社に連絡を取り、エンジンの納品が終わったことを確認した。これで、入金があるわけである。やれやれだ。 内大臣はリビングに連れて行きくつろいでもらっている。ギャラがいくらになるのかは、 付いてから次第になりそうだった。 裕は美奈に連絡を取った。用事が出来たから、先に出立すると。 パーティの真っ最中の美奈は、よく理解できなかったようで、はいはいと返事をしてきた。 太陽系国家フェルザーまで、ワープ2回で済む。隣通しと言うところか。 裕は、<ペルシアン・キャット>をワープさせた。 ☆ フェルザーの方は、寝耳に水だったようだったが、一応亡命を受け入れてくれた。 裕の仕事はこれで終わりである。 わけがなかった。 ギャラをもらってないからである。 モナコ・ドワーニはケチではなく、大枚をはたいてくれた。 よほど居心地が悪かったに違いない。 しかしお隣通りの太陽系国家とあっても、フェルザーが決して安定しているわけではなかった。 <ペルシアン・キャット>をドックに係留したまま、街へ出てみる。 意外に活気がある。敗戦国と言うより、戦争が終わったことが、何よりのことなのだ。 少しばかり歩いてみると、それがよく判る。 誰も彼も、戦渦に焼かれて疲れ切っていたのだ。 それが終わって、脳天気になっているのである。 だが、それは一面でしかない。 「おい兄ちゃん、金もってねえか」 不意に襲われた、後ろに、4人いたのである。 転がされた裕だったが、すぐに起きてパンチを食らわす。 一人轟沈。 さあ、どうするか。 二人目も殴りかかってきた。 同時に三人目も上から蹴りを入れてきた。 二人目をカウンターで熨すと三人目は十文字ブロックで蹴りは跳ね返し、脇腹に一発、蹴りを入れてやった。 最後に残ったヤツも、右フックで終わりである。 こうでもしないと、生活が成り立たないのかな。 内大臣亡命に支払ったギャラを持つ裕には、やるせなさが残った。 ☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年07月27日 17時02分52秒
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