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カテゴリ:DV-ドメスティック・バイオレンス
**2004年4月に離婚が成立した後、2005年の春先から夏にかけて、元亭主Rが起こした親権訴訟の際に、ワタシがYWCAにお世話になった時のお話です。これまでのお話はこちら(長文です)からどうぞ...** ************************************************** さて、無駄足に終わった裁判の日から数週間後。ワタシは再びSDに向けて車を走らせていた。 再度スケジュールされた調停が予定されていたのだ。その日はYWCAの弁護士、ケリーがワタシに付き添ってくれることになっていたため、朝早く、コニーの家に行き、ロンロンを預けたあとダウンタウンにある家庭裁判所へ向かった。 裁判所の前には、開門時間前にはすでに行列ができており、その中にワタシはRの姿を見つけた。そして、その数人後ろにケリーの姿があった。 Rは歩いてくるワタシの姿をチラッと見ると、またあさっての方向に向き直った。ワタシはそ知らぬふりをして彼の隣を通り過ぎ、ケリーに朝の挨拶をして、列の最後尾に行こう、と誘った。 ケリーはRの見てくれを知らなかったから、Rが彼女のすぐそばに立っているとは思ってもいなかった。ワタシは、人よりも頭ひとつ背が高いRを指差し、あれがRだよ、とケリーに伝えた。 と、そのとき。Rがその日着ていたTシャツが目に入った。 そのTシャツのバックプリントには、 「Fathers have rights, too.(父親にも権利はある)」と書かれていた。 ・・・・まったく。 権利というのは義務と表裏一体で生じるものだ。Rがそのとき、息子に対して面会する権利、親権など一切の親としての権利を持っていなかったのは、離婚する際に一度もコートに現れず、子供に対する義務を放棄した結果なのだ。 義務を果たさずして権利を主張する? 前回の調停をぶっちぎっておいて、ぬけぬけとまあ... それは幼い子供がおもちゃを欲しがってダダをこねるのとまったく同じ理屈である。だけど子供はおもちゃではない。子供が育つには執着心だけでなく、食べ物、洋服、学校教育、住居とたくさん必要なものがあるのだ。 しかしまあ、これ見よがしにあんなTシャツを調停に着てくるとは、奴もなかなかのチャレンジャーではある。あのTシャツが果たして可と出るか不可と出るか。あんなTシャツを着てきたことがこっ恥ずかしくならないようにしてもらいたいもんだ... ケリーはRのTシャツに書かれている文字を見ると、 「よくいるのよ。特に自分のことを棚にあげるタイプはああいうものを着て、自分をアピールしたがるのよね...。ワタシが過去に担当したドメスティックバイオレンスがらみのケースでもあれと似たようなジャケットを着てきた父親がいたのよね・・・」と半ば残念そうに、そしてあきれ気味に言った。 さて。 調停が行われるオフィスに入ると、中には前と同じように約10組ほどの男女がそこにはいた。前回とは違って、Rもその中にいた。 ワタシは受付でチェックインを済ませた。そして、かねてからの打ち合わせのとおり、ケリーが受付のおっさんに、個別の調停を行うように申し立てる書類を提出した。 ケリーは手短に、Rにはドメスティックバイオレンスのヒストリーがあることを伝えた。受付のおっさんは、ケリーとは面識があるらしく、にっこり笑って「今日も付き添いかい?」みたいなことを話していた。 ケリーはさすがにYWCAで多くのDV被害者を救ってきただけあって、家庭裁判所では知られている女性のようであった。 さて、そのうちにその場にいるすべての人間がチェックインを済ませ、調停に関する教育ビデオのようなものを見せられた後、いよいよ各調停員が名前を呼びはじめた。 ワタシの名前を呼んだのは、長いブロンドのちょっと小柄な美人だった。ワタシは返事をして彼女の元に行った。彼女は自己紹介を済ませるとこう言った。 「今日の調停は、あなたが申し立てたとおり、個別に行うことにします。まずはあなたとの個別調停を行った後に、Rさんとお話をします。Neverbさんは、調停が終わったら、ワタシがRさんとお話をしている間にこの裁判所を離れていいですよ。」 ・・・いい人だ! この調停員の女性Tさん(仮名)は、ワタシとRとの間にドメスティックバイオレンスの過去があり、もしもRとの調停を先に終わらせると、ワタシのことを待ち伏せする可能性があることまで考えてくれていたらしい。だから、ワタシとの調停を先に済ませ、Rを自分が拘束している間に姿を消せ、と忠告してくれたのだ。 アメリカではドメスティックバイオレンスの事例は本当にたくさんある。ちょっとしたこづきあいから、命を落とした人まで、数だけならおそらく日本の数倍に上るだろう(日本人の家庭内暴力は表面化しにくいという面もあるけどね)。 Tさんはそんな女性たちをたくさん見てきた調停員だったのだろうか。 ワタシはTさんの気遣いに感謝しながら、ケリーに行ってくる、と目配せをし、Tさんの後について、彼女のオフィスへと向かった。 いよいよ、調停が始まろうとしていた。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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