超寿宣言 がん治療2
最近は、開腹手術に比べ、回復が早いという事で、腹腔鏡手術がよく施行されている。切る部分が少なく、手術後の回復が早いので、特に高齢者に対しての手術侵襲ストレスが少ない。しかし、腹腔鏡手術は手技が難しく、熟練した医師でないとなかなか上手くは運ばない。未熟な医師による事故が問題となっている。患者にとって重要な事は、熟練した医師の選択である。主治医の大塚さんと話をする工藤さん(右)と二男の隆成さん(奥)=岩手医大病院で 岩手県八幡平市の工藤弥兵衛さん(86)は昨年1月、岩手医大病院(盛岡市)で大腸がんの手術を受けた。 手術前、二男の隆成(たかしげ)さん(45)は、主治医の大塚幸喜さんから、「早期のがん。切除すれば治る」と聞き、安心した。心配したのは手術よりも、むしろ入院による影響の方だった。 「高齢なので、手術後に入院しているうちに体が弱ってしまうのでは?」 父は足腰が衰え、3年ほど前からつえをついている。すこぶる健康、という状態ではなかったからだ。 手術の傷が大きいと、強い痛みのせいで深い呼吸ができずに肺の一部に空気が行かず、肺炎へと進む場合がある。高齢者の肺炎は命取りになることもあるから注意が必要だ。 また、寝たきりで入院が長引くと、脳への刺激が低下し、認知症の症状が表れる場合もある。 しかし、工藤さんが受けたのは、腹部に数ミリ~1センチほどの穴4、5か所を開け、小型カメラと切除器具を入れて切除する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術。おなかを縦に20センチ以上切る開腹手術よりも、手術後の回復は一般的に早い。 隆成さんは、手術翌日の父の様子を見て、不安が消し飛んだ。手術は夕方行われたが、工藤さんは翌朝には1人でトイレまで歩いて行けた。痛みも無く、顔色も良い。手術の翌々日からは食事も食べた。 腹腔鏡手術は、胃や肝臓、腎臓、前立腺など様々ながんに対して行われているが、最も普及している分野が大腸がん。岩手医大第1外科では、大腸がん手術の7割がこの方法だ。 教授の若林剛さんは「痛みが少なく、腸の動きも早く戻るから食事も食べられる。開腹手術より早くベッドを離れられる点は、高齢者にとって大変意義のあることだ」と強調する。 工藤さんの傷跡は今、ほとんど見えないほどで、5月には親子で鎌倉旅行を楽しんだ。「がんという大病を患った気がしないんですよ」とほほえむ。 最近のがんの治療技術は、単に「がんをやっつける」だけにとどまらず、治療後の患者の「生活の質を高める」技術が増えてきた。 腹腔鏡手術の「胸部」版と言える肺がんの胸腔鏡(きょうくうきょう)手術、肝臓に針を刺しがんを焼くラジオ波療法、様々な角度からがんに狙いを定めて放射線を集中的に当てるピンポイント照射......。 新しい治療法には「医師の技術の向上と、治療成績の検証が必要」(若林さん)という課題も残るが、"体に優しい"医療技術は、特に高齢者にとって恩恵が大きい。 腹腔鏡手術 モニター映像を見ながら切除器具を動かすため、技術の習得に時間がかかる、手術時間が開腹手術よりも長くなる、といった短所がある。操作を誤って臓器に穴を開け、腹膜炎などを起こしてしまうこともあり、できれば、100件以上の経験がある専門医の治療を受けるのが望ましい。[提供:読売新聞]