[債務整理]の記事一覧 | 弁護士の備忘ブログ

根抵当権の被担保債権の範囲と保証債務

不動産に根抵当権設定登記がされている場合、債権の範囲は「銀行取引（信用金庫取引）　手形債権　小切手債権」という記載がほとんどです。根抵当権の被担保債権の範囲について、「信用金庫取引による債権」※「銀行取引による債権」であった場合も同様と考えられますと設定された場合に、当該金融機関に対する保証債務が被担保債権に含まれるかという点について判示した最高裁判決がありました。学生の頃、根抵当権についてはそれほど詳しく学んだわけではなかったので、この機会に備忘のために挙げておきます。最判平成5年1月19日民集47巻1号41頁「被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」として設定された根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債権も含まれるものと解するのが相当である。けだし、信用金庫取引とは、一般に、法定された信用金庫の業務に関する取引を意味するもので、根抵当権設定契約において合意された「信用金庫取引」の意味をこれと異なる趣旨に解すべき理由はなく、信用金庫と根抵当債務者との間の取引により生じた債権は、当該取引が信用金庫の業務に関連してされたものと認められる限り、すべて当該根抵当権によって担保されるというべきところ、信用金庫が債権者として根抵当債務者と保証契約を締結することは、信用金庫法五三条三項に規定する「当該業務に付随する…その他の業務」に当たるものと解され、他に、信用金庫の保証債権を根抵当権の被担保債権から除外しなければならない格別の理由も認められないからである。」この最高裁判決が出るまでは「銀行取引」「信用金庫取引」に保証債務が含まれるかは両説（賛成：東京高判平成元年7月10日金法1234号12頁等、反対：東京地判平成2年7月10日判タ729号255頁）あったようですが、これで決着がついたということでした。ちなみに、上記最高裁判決は結論としては原判決を維持したものですが、結論を導く理屈は異なるようであり、以下のとおり述べています。「原審は、根抵当権設定契約において合意された「信用金庫取引」の範囲は、信用金庫の行う与信取引又は信用金庫と取引先（根抵当債務者）との間で交わされた信用金庫取引約定書の適用範囲に限定されるとの前提に立った上、信用金庫を債権者とし取引先を保証人とする保証契約は、信用金庫の取引先に対する与信行為に準ずるものとして信用金庫取引約定書の適用範囲に含まれると一般に解釈され、当該取引界における商慣習として定着していると判示し、このことを理由に、本件根抵当権の被担保債権には原判示の保証債権も含まれると判断しているところ、根抵当権の被担保債権の範囲を画する「信用金庫取引」の意味は前述のとおりであって、これを信用金庫の行う与信取引に限定すべき根拠は見出し難く、また、被担保債権の範囲を画するのは、根抵当権設定契約であって、信用金庫取引約定書ではない（民法三九八条ノ二第二項所定の「一定ノ種類ノ取引」は、被担保債権の具体的範囲を画すべき基準として第三者に対する関係においても明確であることを要するから、根抵当権設定契約において具体的に特定された「取引」の範囲が、当事者の自由に定め得る別個の契約の適用範囲によって左右されるべきいわれはない）から、この点に関する原判決の理由説示は適切を欠く」

債権者の変更と時効援用

債務整理事件（主に任意整理）では債務の消滅時効を援用することがよくあります。長いこと弁済もしておらず放置していたという案件では、全部の債務について消滅時効期間が経過しており、すべて時効援用で終了するということもあります。ここで注意したいのは、もともとの債権者から債権譲渡や代位弁済等により債権者が変わっている場合です。このような場合には、単純に最後の弁済から消滅時効期間を経過しているか確認すればいいかというと、そういうわけではありません。備忘のために記事に残しておこうと思います。なお、今回は事案を単純にするために、会社からの借入れで、かつ判決等の債務名義を取られていないという事案（＝消滅時効期間は5年）を前提とします。※信用金庫からの借入れだったりするともともとの消滅時効期間が10年だったりするのでその点も注意です。まず、債権者が変わるような事由として考えられるのは、①債権譲渡②代位弁済③保険代位の3つかと思います（③はレアですが）。 ①債権譲渡債権が債権回収会社（サービサー）に債権譲渡される場合があります。このような場合、債権譲渡人に対する抗弁は原則として譲受人に対しても対抗できるので、最後の弁済から5年が経過していれば問題なく時効援用ができます。なお、令和2年4月1日施行の民法改正により、異議を留めない承諾による抗弁権の切断の制度は削除されました。いずれにせよ承諾したら債務の承認となって時効期間が中断（改正後だと更新）されるため結論は変わりませんが。民法（債権の譲渡における債務者の抗弁）第四百六十八条　債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。２　第四百六十六条第四項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。 ②代位弁済保証人が債務につき代位弁済し、求償権を請求してくる場合があります。このような場合、①債権譲渡とは異なり、現在債権者が請求している債権はもともとの債権者が有していた債権ではなく、求償権という別の債権になります。そして、求償権の消滅時効は代位弁済の時点から起算するため、最後の弁済から5年が経過していても時効援用できない場合があります。なお、このようなことはほとんどないかと思われますが、最後の弁済から5年が経過した後に代位弁済された場合には求償権の行使は認められず、支払わなくてよいということになります。・最判昭和60年2月12日民集39巻1号89頁「主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人（以下「委託を受けた保証人」という。）が、弁済その他自己の出捐をもつて主たる債務を消滅させるべき行為（以下「免責行為」という。）をしたことにより、民法四五九条一項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権（以下「事後求償権」という。）は、免責行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となるものであるから、その消滅時効は、委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべきであり、このことは、委託を受けた保証人が、同項前段所定の事由、若しくは同法四六〇条各号所定の事由、又は主たる債務者との合意により定めた事由が発生したことに基づき、主たる債務者に対して免責行為前に求償をしうる権利（以下「事前求償権」という。）を取得したときであつても異なるものではない。」・東京高判平成11年5月25日金商1078号33頁「連帯保証人である控訴人は、訴外銀行からの弁済請求に対して、主債務者である被控訴人太郎とは別個にそれぞれの連帯保証人あるいは主債務者の立場において消滅時効の援用をしてその弁済を拒否することも、その援用をしないで弁済をすることも可能であるが、時効利益の放棄は相対的な効力しかなく、連帯保証人が時効利益の放棄をしても、主たる債務者がその援用権を失うものでないから、委託を受けた連帯保証人が主たる債務の消滅時効の援用ができるのにそれをせずに弁済をして主債務を消滅させても、それは主債務者に利益をもたらすものではなく、主たる債務者のためにする保証委託契約の本旨に適うものとは認め難く、連帯保証人には主債務者に対して求償し得ないものと解さざるを得ない。」 ③保険代位通常の債務整理の事案ではあまりありませんが、賃料債務を滞納した場合等には保険会社が債権者に保険金を支払い、保険会社が保険代位（保険法25条）により賃料債権を行使してくることがあります。このような場合、保険会社はもともと債権者が有していた債権を請求することになるので、当初と消滅時効期間は変わりません。そのため、最後の弁済から5年が経過していれば問題なく時効援用ができます。・東京高判平成24年3月14日損保研究74巻3号233頁「損害保険金を支払った保険会社による被保険者（被害者）の加害者に対する損害賠償請求権の代位行使は，商法６６２条１項又は保険法２５条１項に基づく法律上の当然の移転であるから，保険金支払の時に移転の効力が生じ，代位によって権利の同一性には影響がないと解される。」「控訴人は，代位取得した本件損害賠償請求権を現実に行使することができるのは，別件和解が成立した時（平成２２年１２月２７日）からであるから，控訴人が代位取得した本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点は，権利を行使することができる時期の点からみても，別件和解成立日の翌日の同月２８日である旨主張する（前記第２の３（２））。　しかし，前記引用に係る原判決の「第５　当裁判所の判断」中の１（２）ウに説示のとおり，実務上，被保険者（被害者）と加害者との間の損害賠償請求訴訟において総損害額及び過失割合が確定する前に，人身傷害補償保険金を支払った保険会社が加害者に対して訴訟を提起する事例は見受けられることに加え，現に，控訴人も，被保険者である訴外Ａに対する人身傷害補償保険金の支払後，被控訴人に対し，本件損害賠償請求権の代位取得に基づく求償権行使の意思表示をし（乙１１，１２），別件和解が成立した平成２２年１２月２７日よりも前の同年６月２５日に，自らの判断において訴外Ａに支払った人身傷害補償保険金全額（７５３６万４０８３円）の支払を求めて本件訴訟を提起していることなどの事情に照らせば，別件和解成立まで本件損害賠償請求権の行使を現実に期待することができなかったといえないことは明らかである。　また，証拠（甲４８，乙１１，１２）によれば，控訴人は，本件事故による訴外Ａの受傷につき平成１７年３月１８日にその症状が固定したことを踏まえて，平成１８年１０月１６日に訴外Ａに対し，人身傷害補償保険金（７５３６万４０８３円）を支払ったと認められることに照らせば，平成１７年３月１８日から本件損害賠償請求権の消滅時効が進行するとしても，これをもって控訴人に不意打ちであったということもできない。　以上によれば，控訴人の前記主張は，採用することができない。」以上のとおり、①債権譲渡と③保険代位の場合はもともとの債務と同様に最後の弁済から5年が経過したかどうかという点が問題になる一方、②代位弁済の場合は代位弁済時点から5年が経過したかどうかという点が問題になります。この違いが実際に問題になるのは、最後の弁済から5年が経過したものの代位弁済からは5年が経過していないという場合かと思います。あまりよくあることではありませんが、そのような場合に時効援用しようとしたら明らかに誤りになるので注意が必要です。

個人再生手続の債権者漏れ

個人再生手続の申立ての際は債権者一覧を提出します。その債権者一覧に一部の債権者の漏れがあった場合はどうなるでしょうか。なお、自己破産の場合、知りながら債権者の記載を漏らしたら、原則としてその債務について免責を受けられません。一方、個人再生の場合、個人再生手続開始前に生じていた債権は一律再生債権として扱われ、債権者一覧に記載しなくても再生計画の効力が及びます。つまり、再生債権で債務の80％をカットされ、3年で分割払いすることとなった場合、漏れていた債権者についても債務は80％カットされ、3年で分割払いすることになるということです。これは債務者が債権の存在を知っていても知らなくても同じなので、漏らした場合には免責を受けられないという破産手続とは扱いが異なります。もっとも、再生計画に基づく返済ができるかどうかギリギリの収支状況であったり、再生計画の認可確定から時間が経った後（弁済期間が始まっている後）に債権者漏れが発覚したりした場合は、実際には返済することは困難なので、問題が生じることも少なくないかと思われます。なお、債権者一覧に記載しないということについて債権者側に帰責事由がある場合は「劣後化」され、再生計画上の弁済期間が満了する時まで弁済等が禁止されます。これは、例えば債務者と債権者が申し合わせて個人再生手続から外したような場合が考えられます。いずれにしても、個人再生でも自己破産でも債権者漏れは手続の進行に大きい影響を与えます。弁護士が債権者を把握する方法は、基本的には依頼者の方から聴取するしかない（通帳の取引履歴等から発覚することもありますが）ので、債務整理を依頼する際は必ずすべての債権者を申告してください。申告しなければ最終的に自身の不利益となる可能性があります。破産法（免責許可の決定の効力等）第二百五十三条　免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。一～五　略六　破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権（当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。）民事再生法（再生債権となる請求権）第八十四条　再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権（共益債権又は一般優先債権であるものを除く。次項において同じ。）は、再生債権とする。２　略（再生計画の効力等）第二百三十二条　略２　小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定したときは、すべての再生債権者の権利（第八十七条第一項第一号から第三号までに掲げる債権については前項の規定により変更された後の権利とし、第二百二十九条第三項各号に掲げる請求権及び再生手続開始前の罰金等を除く。）は、第百五十六条の一般的基準に従い、変更される。３　前項に規定する場合における同項の規定により変更された再生債権であって無異議債権及び評価済債権以外のものについては、再生計画で定められた弁済期間が満了する時（その期間の満了前に、再生計画に基づく弁済が完了した場合又は再生計画が取り消された場合にあっては弁済が完了した時又は再生計画が取り消された時。次項及び第五項において同じ。）までの間は、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為（免除を除く。）をすることができない。ただし、当該変更に係る再生債権が、再生債権者がその責めに帰することができない事由により債権届出期間内に届出をすることができず、かつ、その事由が第二百三十条第三項に規定する決定前に消滅しなかったもの又は再生債権の評価の対象となったものであるときは、この限りでない。

スーパーの破産とプリペイドの返金

最近、こんな記事を見ました。スーパー突然閉店独自プリペイドカードの「返金なし」　大空幸星「誠意ある対応を」https://www.j-cast.com/tv/2022/10/06447432.html?p=all 確かにプリペイドカードに入金したのに突然スーパーが閉店し、返金もないのであれば怒るのは当然です。自分が同じ立場でも怒ると思います。ただ、この記事を読んで、会社の破産も取り扱う弁護士の身としては言いたいことがあります。それは、会社が破産する場合、一般の方に対してであっても、返金の請求には一切応じられないということです。会社の破産手続の流れは事案によって様々ですが、次のような流れが多いです。 ①会社の営業は続けつつ、密行的に破産の準備を進め、債権者の事前の通知なく裁判所に破産を申し立てる→この場合、裁判所の破産手続開始決定が出て初めて事業廃止・破産の事実が明らかになることになります。 ②ある時点で会社の営業を停止し、債権者に対し弁護士の介入の通知（受任通知）を行った後、準備ができ次第破産を申し立てる→この場合、弁護士の受任通知や店舗閉店により事業廃止の事実が明らかになることになります。 ③会社が事実上事業廃止した後に弁護士に依頼し、破産費用を積み立ててから破産を申し立てる→この場合は、弁護士が介入する以前の時点で事実上事業廃止しています。報道を見るとこのスーパーの運営会社はまだ破産の申立てをしていないようなので、②の手続で進むものと考えられます。そして、②の手続の場合、弁護士が受任通知を送付した後は、基本的に債権者（プリペイドの入金をしていたお客さんも債権者に含まれます。）に返済することは一切できません。その理由は、破産手続上は債権者を平等に扱わなければならないとされているためです。債権者は平等なので、債務を全額支払えない以上、債権者全員に対して支払を停止せざるを得ないということになります。債権者全員というのは、借入をしていた銀行などの金融機関、商品の仕入れなどの買掛金、プリペイドの返金を求める個人のお客さんなど全て含みます。※ただし、税金や従業員の給料などの債権は破産法上の財団債権として優先的に返済を受けられるため、ここでは債権者平等は該当しません。「個人のお客さんがかわいそうだからプリペイドの返金だけは行う」ということはできません。仮に受任通知を送付した後にそのようなことをしてしまった場合、破産手続開始後、破産管財人が、返金を受けたお客さんに対しその返済分の返還を請求する（法律上は「否認」といいます。）ということになりかねません。そうすると逆に多くの方に迷惑がかかることになってしまいます。そのため、破産の依頼を受けた弁護士としては、個人のお客さんに対して返済したくともできないというわけです。なお、破産手続が進行し、仮に債権者への配当ができるようになったら、銀行などの債権者と同様に、個人のお客さんの債権者に対しても配当が行くことになります。この記事には「誠意ある対応をしてほしい」との文言がありますが、法律上は返済ができないということについては理解してもらいたいところです。破産に至った経緯や、仮に事業が厳しいのにプリペイドを導入したとすればその判断については批判されても仕方ないですが、事業廃止に至った後にプリペイド分の返金をしないということについて批判されてもどうしようもないというのが実際のところです。

ネットでよく見る誤りについて②

今回の記事は、ネット上で見る誤った意見第二弾です。今回は「自己破産すると財産はすべてなくなるし、通常の生活はできなくなる」という話についてです。このように言われている・考えられているのはネット上だけではないかもしれませんが、とりあえずその点は置いておきます。このような考えは、自己破産という制度のイメージ上仕方ないのかもしれませんが、やはり誤りです。まず、自己破産というものを平たく言うと、債務者が持っている財産をお金に換えて、そのお金を債権者に分配するという手続です。※よくある破産のイメージは「借金がチャラになる」というものかもしれませんが、厳密にいうとそれは破産と同時に申し立てる「免責」という手続です。しかし、破産法上、債務者（破産者）が持っている財産すべてを換価しなければならないわけではありません。参考として破産法の条文を挙げておきます。（破産財団の範囲）第三十四条　破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産（日本国内にあるかどうかを問わない。）は、破産財団とする。２　破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。３　第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。一　民事執行法（昭和五十四年法律第四号）第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭二　差し押さえることができない財産（民事執行法第百三十一条第三号に規定する金銭を除く。）。ただし、同法第百三十二条第一項（同法第百九十二条において準用する場合を含む。）の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。４　裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。５　以下略法律を勉強していないとこれを読んでもチンプンカンプンかと思いますが、条文での「破産財団」というのが換価しなければならない財産のことを指します。とりあえず、「破産者が破産手続開始決定時に有していた一切の財産が破産財団になるが、それには例外がある」ということ、つまり、全ての財産を換価しなければならないというわけではないということを分かっていただければいいです。換価しなくてよい財産のことを「自由財産」といいます。具体的には、原則として99万円の限度内での現預金、家財道具、通勤等に必要な自動車や生命保険等（破産手続において自由財産として認められる必要があります）といったものは自由財産として、処分せずに残すことが可能です。他にも色々な種類がありますが詳しくは弁護士に相談してください。仮に破産者が持っている財産のうち、現金以外に価値あるものが存在しなければ、破産者は現金を最大99万円まで残すことができるわけです。破産という制度の目的の一つに債務者の経済的再建というものがあります。上記の財産も処分しなければならないということになると、そもそも破産者が生活すること自体できなくなり、破産制度の趣旨にも反することになるため、このような例外が認められています。なお、さらに細かい話ですが、残しておきたい財産が合計99万円を超える場合であっても、別の方から援助を受けるなどして、ある財産（以下「財産A」とします。）の価値と同等の金額を破産財団に組み入れることで、破産管財人に財産Aを破産財団から放棄してもらい、破産者において財産Aを保持し続けることができる場合もあります。以上のように、破産をしても財産を持ち続けることはできますので、財産がすべてなくなるということはありません。また、破産手続開始決定後に得た財産（開始決定後の給料など）は原則として破産財団ではないため、仮に破産手続中に受け取ったものであったとしても、処分する必要はありません。生活の面でも、破産をすれば信用情報（いわゆるブラックリスト）に事故登録がされますし、官報にも破産の事実が掲載されますが、特に日常生活上の支障が生じることは基本的にはありません。戸籍に破産の事実が記載されることもありません。破産手続が終了してからある程度経たなければ新たな借入れをするのは難しいですが（これは信用情報の問題です）、会社勤めをすることも、家を借りることも可能です。※家を借りる際の保証会社の審査に影響が出る可能性はあります。また、資格制限のある職業に就いている方は職業上の影響が生じます。特に自分から言いふらさない限りは、破産したということも他の人からは分かりません。私が所属している事務所でも、依頼者の意向により、家族にもできる限り知られないようにして破産手続を行うということもあります。もっとも、破産の申立ての際には同居人の収入資料や同居人を含めた家計収支等を提出してもらう必要があるので、同居人に全く知られずに破産することが絶対に可能であるとはいえないので注意してください。私も自己破産事件を数多く扱っていますが、自己破産というものは一般的に思われているより、かなり日常生活への影響は小さいと思います。もちろん軽々に判断すべきことではありませんが、多重債務に悩んで体を壊したりするよりは、自己破産も選択肢に加えて対応を検討すべきでしょう。