2005/08/12(金)16:33
『むかしのはなし』三浦しをん
語られることによって人々の心に残ってきた「日本の昔話」。そんな昔話を三浦さん流に7つの物語にした1冊です。
7つの短編がおさめられているのですが、そえぞれの冒頭にはかぐや姫や浦島太郎などの昔話が短く語られています。しかしその物語の流れを汲んでいるのかというとそういうわけでもなく、それぞれ独立していながらつながっているSF短編小説という感じでした。
なぜ未来的SF小説でありながらむかしのはなしなのか…。それは三浦さんによるあとがきを読んではっきりとしました。
できればその流れを楽しんでいただきたいのでここでは語りませんが、三浦さんのまたまた新しい一面を見せていただいたと嬉しくなりました♪
ヤクザにかかわりを持ってしまい命をねらわれることになってしまったホストの話『ラブレス』
犬の散歩をきっかけに空き巣を職業とするようになった男の話『ロケットの思い出』
精神科医に自分の体験を語り始める『ディスタンス』
地元に残り舟屋で生活をするぼくの話『入江は緑』
複雑な世の中になりつつある中でタクシー運転手として働き続けるわたしの話『たどりつくまで』
サルみたいな顔の男と結婚しその実状を愚痴として語る私の話『花』
無口で強くて他の生徒とはあまり関わりを持たず、何を考えているのかわからない男子学生のモモちゃんとその彼女宇多さん、幼馴染の有馬。そんな彼モノちゃんが気になるぼくの話『懐かしき川べりの町の物語せよ』
以上の作品からなっています。個人的には最後の『懐かしき…』が一番心に残りました。どこか感情の一部が壊れてしまったかのようなモモちゃんは実は芸術的な面では優れていたのかもしれない、愛情ある家庭で育ったなら天才と言われていたのかもしれない、しかしそうでなかったからこその彼であるのかもしれない…。わかっているようでわかっていない、知らない振りをしてその実すべてを知っているようなモモちゃん。ぼく以上に彼らに興味を持って読んでいました。
そして最後の三浦さんのあとがきを読んで、不思議でどこか疑問の残る物語たちが私の中でそれぞれがつながってゆく快感。それはとても楽しいひと時でした。