夜が待ち遠しい

2020/05/04(月)09:41

本当に旨そうにビールを呑む男達 邦画篇

映画(16)

 家呑みのことを書くつもりでいたのですが、新型コロナ関連のニュースばかりが飛び込む中、それとは別に心痛める出来事があったので、急遽、まったく別のテーマを書くことにしました。その悲しい話のことは後回しにして、その話題にも関わることになるので、唐突ですが本当にビールが呑みたくなる映画について書いておくことにします。映画の重要な小道具というかテーマ・物語にも直結することも少なくない酒ですが、この話題はネタが尽きぬのでこの先しばらくはシリーズ化していけたらいいなと思っているので、最初の一杯としてビールから始めたいと思うのです。  まずはあえてぼくが語るまでもないタイトルでありますが、山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』(1977)を挙げておかねばなりますまい。刑期を終え出所したばかりの高倉健が立ち寄った食堂で呑むビールであります。おずおずと両の手でグイと呑み干すサッポロラガービールの旨そうなことは、やはり酒への渇望が限界まで昂じたことによる旨さということに尽きるでしょう。これは間違いなく最高に旨いビールの呑み方に違いないだろうと思うのです。例えば椎名誠がどこかで書いていた気がするけれど、昼から水分断ちしてそのために購入したというサウナで塩が吹くまでに体内から水分を排出するという方法が安易かつ危険なやり方でありますが、これはやはり単純に我慢という点が共通項であるのであってまったく別物であると思うのです。実際に高倉健はこのシーンの撮影のために2日間絶食したことは有名なエピソードであります。単純に我慢に費やす時間の長短が問題なのでもない気がします。呑もうと思えば呑めるけれど呑まぬのと、呑みたくても呑まないというのは峻別する必要があるのです。しかしまあ、ラーメンとカツ丼の方がより渇望時には魅力があるような描写であったのが惜しいと思うのだ。いずれにせよ刑務所から出所後に浴びるほどの酒を呑むという描写は特に東映で若山富三郎や菅原文太などが見せてくれたけれど、いずれも映画館で見ていて激しく呑みたくなったものです。  ​ 幸福の黄色いハンカチ デジタルリマスター2010​  それから黒澤明の傑作『野良犬』(1949)の志村喬の演じるベテラン刑事のに誘われ、彼の自宅で後輩刑事の三船敏郎にご馳走になって呑むビールも旨そうだった。この映画は灼熱の東京を汗だくになって歩き回る上に、出てくる連中がとにかくギラギラとギラ付いているから見ていてとにかく喉が渇くのです。だから、ここで振舞われるのはビールでなくてはならないのです。ビール以外の選択はあり得ない。映画を見ながら喉がグビリとなったかどうか記憶が定かではないけれど、もう旨そうで仕方なかったから、いつか再見する機会があるなら冷えたビールを傍らに彼らとともに呑む準備をしておくのが良さそうです。 ​ ※※【ゆうパケット対応】 特価!! 野良犬 DVD(新品)​   今回、書きたかったのは、大林宣彦の訃報でした。大林映画に限らず、今回登場した三人の映画作家は、ぼくにとっては愛憎半ばする監督ばかりになってしまいました。その理由を書き出すとそれだけで相当な分量の文章を要するのでここでは割愛しますが、大林宣彦はその活動の初期におけるとあるエピソードによってどうしてもその人間性を容認しがたいものにしているのです。そのエピソードはシネフィルの方であれば恐らくご存じであろうけれど、ここでは書かぬことにします。そんなぼくにとっては不快な出来事をしていた当時に『転校生』という稚拙さも目立つけれど愛さずにおられぬ青春映画を作っていたのが映画の不思議であります。映画の主人公の一人、形は男だけど心は女の子に入れ替わってしまった映画少年を演じた尾美としのりの父親、佐藤允が引越し前の自宅の居間で家族揃って夕食する際の晩酌のビールほど旨そうなのを見たことはないのであります。このシーンを撮り得ただけでも大林宣彦はぼくにとって忘れられぬ映画作家なのです。  ​ 大林宣彦DVDコレクション 転校生 DVD SPECIAL EDITION 【DVD】​  大林宣彦監督の逝去により映画の中の酒という安直なテーマとなってしまいましたが、こんな外出自粛を求められているさなかでありますので、まだ未見の方やこの文章により再見してみたくなった方がおられたら晩酌の際にでもご覧いただくとよろしいのじゃないかと。ぼくは映画はスクリーンでフィルムで上映されるもの以外は、否定してみせるゴリゴリの映画マニアを気取っていた頃もありましたが、これからはこうした映画の見方もありと柔軟になったほうがいいのかなとか思ったりしたのでした。

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