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「きみは疲れているんだ。そうだ。マッサージをしてあげよう」と彼
の手が背中で這いまわる。そう。それはマッサージと呼べる治癒 行為からはほど遠く、言うなればエロさ丸見えのボディタッチだっ た。当然のことながら彼の手は背中からはずれてやがて臀部界 隈をまさぐり始める。「さぁ、僕の部屋に行こうよ。僕のベッドに行 こうよ。ね」彼の声も、その仕草もあくまで優しかった。 万事休すか。病床に伏せる身では不意の諦観に抗いようがなかった。 勿論、我が身を起こすことさえ叶わないのだから抵抗の真似事をした ところで俺よりも体躯の一回り大きな彼に勝てる見込みはなかった。 そうこうしているうちに彼の手は臀部も通り抜け、内股あたりを 彷徨い始める。やばい。もうダメだ。三十を目前にして俺は遂に 貞操を失うのだ。女性のみに捧げてきたこの身体を、遂に、遂に と思ったとき、部屋のドアが開いたのである。 フランス人の相棒が市場の物色から戻ったのだ。パキスタン人 の彼の手は素早く内股から抜かれ、日本人の俺は安堵した。相 棒と挨拶を交わすとパキスタンの彼はすぐに部屋から出て行った。 「どうですか。体調は」フランスの彼は少しニヤニヤしながら訊い てきた。 「だめ。全然ダメだよ。って言うか、今、俺、危なかったんだ」 「そう。彼は男色家(ホモ)です」相棒はこともなげに言う。「宿に 着いた時からあなたのことを色っぽい目で見ていたからね」 脱水症状で意識が朦朧としていた俺には気付かなかったが、 相棒は彼の見掛けからちゃんとわかっていたというのだ。俺とて 判断を誤ったわけではないが、『見掛けの判断すら出来ないほど に体調を崩すことなかれという教訓を得たことで善しするか』と自 らを慰めるしかなかった。 ことほど左様に人の見掛けは大事である。見掛けにはその人 の個人情報満載だ。それに気付くか否かの差が人生や旅を左 右する。七ヶ月間に及んだ大陸の旅は、未熟者の身には教訓 多き旅だったのである。 人は見掛けによるのか 【了】 ブログランキングに参加してみました。時間と気持ちの余裕ある方、クリックどうぞ 人気blogランキングへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.01.16 21:00:06
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