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具合の悪い旅行者もいるもので、英語はまるで駄目、
話せる英会話はハローとサンキューだけ。それを英会話 と呼ぶかどうかは別として、然るべくして彼は英語表記 の施設案内なども一切読解不能なので飛行機から降りても 一人で空港の外に出ることも出来ない。誰かの後について 行くのみである。後についたその誰かが空港職員かなんか だったら彼は間違いなく部外者立入禁止区域へでも踏み込 んだ筈である。勿論そうとは知らずに。 バスポートチェックも税関もちんぷんかんぷん。何を訊 かれても何を問われてもフリーズした笑顔を返すばかりだ。 宿をとるのもチケットの予約も一苦労どころではなく、ほ とんどふざけているとしか見えないゼスチャーや覚えたて の英単語を繰り返すばかりでさっぱり埒があかない。つま り彼が海外に出るのは初なのである。それなのに陸路アジ アの地を横断しトルコはイスタンブールを目指すという。 常識的に考えればかなり無謀であるし、それでもまだ潤沢 な旅行資金に支えられているとかならば力押しの旅もでき ようが、軍資金20万円だというのだから無謀というよりも 何処か見知らぬ土地で浮浪者にでもなるつもりなのかと 疑われもしよう。 周囲の方々がこぞって反対するのは必然である。 「悪いこと言わないからイスタンブールなんて諦めてさ、 インドあたりを1~2ヶ月回ってみたらいいんじゃない。 ね、そうしなさいな。それでも充分に面白いって」そん な親切で心優しい方々の進言も彼の耳には届かない。彼は 無謀さを大上段に振りかざしつつ西進したのである。そし て無謀にもイスタンブールに着いたのだが勢いのついてい る彼は止まることなく更に西を目指す。東欧を越え、ドイ ツでヒッチハイクを繰り返し、フランスはパリにたどり着 いたとき残金2000円という具合の悪い旅行者とは俺なので ある。 具合の悪い人たち 【了】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.12.17 11:41:23
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