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英単語を幾つかつなげようとして口ごもり、俺の四本の手足が
怪しく動き始めるやいなや宿のおやじは露骨なまでに、さも迷惑 げに顔をしかめ「はいはいはい、はい。私は非常に忙しい身だから。 ね、わかるよね。今はアンタのゼスチャーにつきあってる時間は ないから。ね、ね、わかるよね。じゃ」みたいなことを言って(推測) は俺を遠ざけるのが常日頃であり、その日もコピーマシーンを探 しているというゼスチャーを理解できず、彼は腕組みをしたまま 鬱な眼差しで俺の動きを追っていたからこれはさすがに埒があか ないと悟った俺は描いた絵を掲げて「コピープリーズ」とやったの である。 するとどうだ。おやじの目つきが変わり、二枚の絵を俺の手から 取上げるとおやじは絵にかぶりつきとなったのである。 「すごいじゃないか。うん!グッドピクチャーだよ、これ。すごいよ! 誰が描いたの?うそ!?アンタが描いたの。ワオ!!すごいよ、 まじに!びっくりしちゃうよなぁ。アンタがこんな絵描けるなんてさ」 とにかく褒めちぎり、嬉しそうに絵を抱えると「任しときな」と ばかりに外へ出て行ってしまったので俺は呆気に取られたのであ るが、さすがに悪い気はしなかったし、宿のおやじはそれ以降すっ かり俺の取扱い方を変えてしまった。疎ましい奴から三段階くらい 格上げされ、こいつ英語はからっきしだけど絵描かせるとなかなか どうしてたいした奴なんだよねとなり、そういう評価を得てみて初め てわかったのだが、それ以後も俺の英語力は相変わらず超低空飛行の ままなのに何故か相互理解度が深まってしまったのである。 つまり宿のおやじは俺の意味不明な英語をなんとか聞き取ろうと 努力するようになり、更にはヒアリングにも難がありすぎる俺にも聞き 取れるようゆっくりと優しく喋ってくれるのである。これは大きな変化 だった。宿のおやじとのコミニュケーションが容易になることで様々な 事が好転しだした。まず、余計なゼスチャーを行わずに済むことによっ て貴重な時間と体力の浪費を防ぎ、英会話を中心とした語学への 取り組み方がより真摯で積極的なものとなり、宿のおやじ以外の外 国人ともコミニュケーションが可能となることで、あかるい顔で毎日を 過ごせるようになったのである。まるでどこぞの自己啓発セミナーの 受講者の如き極めてポジティブな変化ではないか。これで俺もすっかり 外向きである。(つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.12.20 13:12:20
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