テーマ:八重山的小説(65)
カテゴリ:nobel
歓迎会の翌日、地元の壮健なる紳士がお客 様としてやってきた。土産物屋だけあって顧客 のほとんどは観光筋であるからこれはたいへん 珍しい、如何いたしましたでしょうか御客様、何 か御探しですかと則安が接客にあたったところ 壮健なる紳士は上着の胸ポケットよりメモなどを 取り出して恭(うやうや)しくも言うのである。 あ~きみきみ、きみは内地の青年だな。何処 だい?山形か。そうか。山形はいいところだな。 うんうん。山などがとても美しくて、確か湖など もあったな。それに大きな河が流れていた。う んうん。わしは行った事はないが、写真で見た ことがある。うん、たいへんなもんだよ山形は。 あ~きみきみ、ところで黒糖を100箱ばかり 用意してもらえんか。そうか。大丈夫か。いや~ ありがとう。うん。ありがとう。ほかのところでも 訊いてみたんだがな、どこの店でも100箱は 無理などとふざけた事をぬかすから、あ~もう おまえらには頼まん!お客様が欲しいと言っと るのに無理だの無いだのとは何事かと怒って やったわい。まったくふざけとる。そうだろ。な。 もし在庫が無いのなら島中を探してでも100箱 用意するのが商売だろ。そうだろ。うん。あ~ きみきみ、きみは内地の青年だな。何処だった か?山形か。そうか。いいところだな山口は。 え?山形?いやいや、山形も山口もいいところ だろう。そういう話をわしはしてるんだ。な。 少々意味不明ながらも地元紳士が取り出した メモには黒糖100箱などと確かに走り書きされ ていたから則安はメモを受け取ると店舗奥の倉 庫へとただちに走ると、本土へと送る予定だった 黒糖100箱の発送停止を係の者に命じ、緊急 大量注文分としてそれを確保することに成功し、 紳士の要望に見事応えてみせたのである。 数量が数量だけに配達させて頂きます。お支払 いもその際で結構ですよ。このたびは誠にありが とうございました。こちらに配達先のご住所とお名 前、それに電話番号をご記入ください。などと則 安はいつになく接客トークに力を入れ、島の紳士 もたいそうお喜びになられたのである。 島のオジーのそのあまりの笑顔に則安はすっ かり気を良くした。出会い系サイトで知り合った女 と会うためだけに石垣島へ来て、考えもなしにそ の女と結婚して、それで果たして島でやっていけ るのかどうか不安もあったが、則安はこの仕事の 成功をもって島の人間に成れた気がした。 ボクは完全に受け入れられた。これでボクも立 派な島人(シマンチュ)さ。方言こそまだ喋れな いが、それだってすぐに覚えてみせるさ。嗚呼、 今日は最高の日だ。今夜はお祝いだな。そうだ。 麻美にごちそう作るように連絡しとかなきゃ。 うん。今日はいい日だ。 則安は初めての大口の顧客を扱った充実感み たいなものに浸ってたいそう良い気分だった。そ う。少なくともその日の午後が来るまでは。 (to be continued) ランキングベスト10までは遠い道程ですが頑張って書きますよ。 皆様、よろしくお願いいたします。下記の文字列をクリックしていた だければブログランキングへの投票完了です。
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Last updated
2006.04.08 08:43:53
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