テーマ:八重山的小説(65)
カテゴリ:nobel
「オルティス、あなたは怪獣グブロフを守護とす ることで聖戦士を統率する役割を担っている のでしょうか。つまり、あの、僕はあなたの部 下なのですか。ならば、あの、僕は使い捨て の兵隊ですか。所詮は鉄砲玉かよ。畜生め。 死んで来いってか!玉砕万歳ってか!僕は絶 対にそんなの嫌だ。そんなのは…絶対に」 次第と逆上しそうになるものの海路がそのよう にして極めて直接的な質問をぶつけたところオ ルティスことショウコの回答は意外なものだった。 曰く。 皆それぞれに守護を持っていることを忘れてし まったのか。確かに、前世からの記憶をすべて 維持するのは非常に難しく、魂のステイタスが 高くなければ出来ないことであれば、ま、記憶 に削除項目が発生しても致しかたない。ならば 教えよう。示唆してあげよう。ウミミチことウミ ロッチェよ。あなたの守護はザンバディーゴ。 体長三十メートルにも及ぶ巨大海蛇だ。あなた は近いうちにこの石垣島の海でザンバディーゴ と再会することになる。覚えておくように。そし てガミル、あなたの守護は百二十本の毒針を 持った巨大スズメバチ。そしてユージン、あなた の守護は七色の襟巻きを回転させ敵を真っ二 つにしてしまう巨大エリマキトカゲ。で、あな たの守護は、と言う具合にして十二名全員の守 護がショウコより告げられ誰もが衝撃と感銘、 そして歓喜に包まれたのであるが、何故か各員 ともウミロッチェだのザンバディーゴだのガミル だの妙なカタカナ名で、誰の守護も変な巨大生 物であるあたりに頭の痛いものを感じつつも聖 戦士諸氏は動じるものではない。守護を告げら れた聖戦士は誰も皆誇らしげに胸を張り、根拠 のない自信を深め、まだ見ぬ敵への闘志をむや みに掻き立てたのである。 「そうかぁ、僕にも守護がいたんだあ。やっぱり なあ。うんうん。ザンバディーゴか。巨大海蛇 ね。近いうちに会えるんだな。楽しみだなあ。 あれ、でも僕、泳げないけど巨大海蛇とどう やって出会えるのかな。あ、やっぱ船だろうな。 もしかしたら僕らはこれから船に乗ることに なるのかなぁ。そうだよ。きっとそうだよ。そ こで僕はザンゴバーディと再…あれ、ザンディ バじゃない、ディンゴザーバだっけ。ま、とに かく僕は僕の守護ともうすぐ会えるんだよな。 うんうん。楽しみだなぁ」 そのようにして海路などがまだ見ぬ我が守護巨 大海蛇との再会への期待感に胸ふくらませてし まうからショウコなどはまんまと聖戦士筆頭の 座を得ることとなったのであるが、忘却の守護 をショウコより示唆されても一人だけ浮かぬ顔、 合点のいかぬ風情のものがいた。 今度は海路ではない。マリちゃんである。 マリちゃんに明かされた守護の正体は巨大蜘蛛 だった。両脚を広げた全長が三メートルにも及 ぶタランチュラ系らしいのだが、マリちゃんは 蜘蛛が大の苦手なのだ。苦手と言うより嫌い。 大嫌い。見るのも嫌。同じ空気を吸ってるだけ でも許せない。あんな生き物世の中にいなけりゃ いいのにぐらいに日頃より思っていたのに嗚呼 それなのに、よりによってそんな奴が三メート ルの巨躯となり果てて前世の昔より自分の守護 であったとは嗚呼情けなや。そんな不条理なこ とがあっていいものか。それもよりによって巨 大蜘蛛の名前はアホランテなどという阿呆な名 前なのだ。ふざけんのもたいがいにせえ。マリ ちゃんはそう思った。 なれば蜘蛛嫌いのマリちゃんが我と我が身を護 らんとすれば彼女の思案が行きつく先はひとつ であり、つまり蜘蛛なんぞを守護に指名してき やがったショウコの否定である。 無論「前世が聖戦士」という部分は互いにとって 存在の核であるからそこを否定してしまうと下 手をすれば自己否定にもつながりかねないので そこんところは踏み込める筈もなく、なればマ リちゃんが否定の矛先を向けるのはただひとつ、 ショウコが主張する各人の守護指名の部分だ。 つまり、各聖戦士と各守護のつなぎ方に誤りが あるのではと疑ったのだ。 ショウコ―グブロフ(ヤエゴン) ウミミチ―ザンバディーゴ(巨大海蛇) マリちゃん―アホランテ(巨大蜘蛛) と言う図式ではなく、本当は マリちゃん―グブロフ(ヤエゴン) ショウコ―アホランテ(巨大蜘蛛) ウミミチ―ザンバディーゴ なのではないかとマリちゃんは案じ、すぐにそ う断じた。されば眠れる巨神グブロフことヤエ ゴンはもう我が手に落ちたのも同然だった。 『さあ、起きるのよグブロフ。私と共に聖戦に 立ち上がるのよ。さあ起きなさい。グブロフよ、 起きるのよ』 マリちゃんは大声でそう叫びたかったが、ショ ウコやショウコシンパの手前もあり、仕方なく 心の中だけでそう叫んだ。ヤエゴンが声に反応 するかのようにその四肢をわずかに震わせた。 【つづく】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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