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人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

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2008.05.20
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カテゴリ:旅ネタ
旅をしても同じ土地に行っても同じかたと逢っても人それぞれ言うことが違う。感想、感銘、感慨、評価など人それぞれに温度差がかなりあるのである。

当たり前っちゃあ当たり前だと思う。
なんで感慨や感想が異なるって、やはりそれは受け手の資質才能能力如何によるからだろう。とてもイージーに言うと、バカが見た世界はバカげたものだし、正義感に溢れた方が見る世界の現状は許せないものだし、甘やかされて育った人にとって放浪は過酷としか思えないのである。

長く旅をしてるとしばしばあることだが、ある旅行者からもたらされた旅の情報(感慨感想等)が、いざ自分の目で見たり体感してみるとまるで異なる感慨や感想を覚えたりするのは、つまりそういう事なのだろう。ま、それは何も旅に限ったことでなく、日々の暮らしの中でも同様のケースはしばしばお目に掛る。例えばマルチ商法系の勧誘に容易くも乗せられてしまう金欲旺盛な方々にとって、組織上部にいるなんとかビューターだのクラウンなんとかみたいな奇妙な役職名を戴いた詐欺師まがいはとても才能溢れる素敵で有能な人物に思えて仕方ないのだろうが、マルチ商法で痛い目をみた方々にしてみれば連中はあくまで詐欺師の親玉であるわけだ。

で、これに男女の別を考慮すれば更に旅は別物となる。一般的に語られるところによれば『男は立ち小便が何処でもできるが女はそうもいかない』とか『男は一人で夜道を歩けるが女は貞操の危機があるのでそうもいかない』みたいな話となるし、それはそれで否定もしないが、それを以って男の旅は自由と浪漫に溢れた雄雄しいもので、女の旅は制約の多い面倒な旅になるのかと言えば全然そんなことはないのである。言葉的には少々おかしいが私見としては女の旅のほうが雄雄しかったりして、野郎の旅は意外に女々しい。

旅の最中の野郎はよくほざく。
シーツも替えない宿だからやめたほうがいいだの、どこそこの宿では碌に英語も通じないだの、どこそこのマーケットはぼったくりばかりだのと言った不平不満の類や、見て回る経路や順番をきっちり決め、段取りして回り、情報収集して回り、最後に「ああ、いい旅だった。思い描いた旅が出来ました。じゃんじゃん」みたいな予定調和に持って行きたがるのは大抵は野郎だ。男なのだ。

で、女の旅は大胆だったりする。
目の前に立つ人をインスピレーションで判断し、機を見るのに敏で、状況に応じてそれまで立てていた予定なんぞ簡単に変更放棄するし、見知らぬ人や土地にずかずかと入り込んで行く。それに何より女という性は世間(旅)を渡りやすいようだ。

写真は私がドイツはシュツットガルト郊外を走るアウトバーンのパーキングエリアでヒッチハイクをしているところであるが、車の残像を見ても明かなように一向に車は停まってくれなかった。むしろ殆どの車は私の前を加速して通り過ぎて行くのである。大変せつない事であるが、仕方ないっちゃあ仕方ないと思うのである。だって、全身黒尽くめの長髪の薄汚れた東洋人がアウトバーンでヒッチハイクなんかしてたら誰しもアクセルを踏み込みたくなるだろう。『げっ、何者こいつ?無視無視』みたいにして。

で、これは早朝七時ぐらいの景色なのであるが、それから延々と二時間近くヒッチしても一台も停まってくれない。だいたい何でアウトバーンでヒッチハイクなんかせにゃいかんのかって、前日に乗せてくれた車に此処で捨てられたからである。「悪いが目的地が違うんで、此処までな。じゃ、がんばって!」なんか言い残されて。

だから前日の夕暮れ時も三時間ほど徒労のヒッチハイク行為をしたのだが、やっぱり一台も停まってくれずに翌朝を迎えたわけであるから都合五時間もつかまらないと徒労感を越えて絶望感さえ芽生え始める。絶望が芽生えるってのもよくわからない表現であるが、とにかく、もうダメなんじゃないか。俺の旅はここで終わるのだろうか。なんて気にもなってくるのである。ぐだぐだとそんなことを考え始めた頃、私の前方(つまり車がやってくる方向)50mほどのところに白人女性が一人現れ、バックパックを足元に置くとヒッチハイク姿勢に入った。きっと私同様の身の上なのだろうと思った。見れば何やら肢体すらりとして可愛げな女性である。

『ハハハ。あのね、きみね、知らないかも知れないがアウトバーンのヒッチハイクは苦労するのだよ。なんだったらこちらへ来て同病相哀れむと洒落こみませんか♪』

などと彼女への気遣いの一つも向けんとした時、一台の車が走ってきた。無論、彼女は当然のようにヒッチハイクを掛ける。見れば車はするすると減速し、彼女の前でぴたりと停まると運転席の窓を開けて何やら交渉。十秒ほどで交渉は成立し、彼女は後部席にバックパックを仕舞い込み、御本人が助手席に座ると車は発進、私の前で又も加速して行ったのである。

私が唖然となったのは言うまでもないが、つまるところ、彼女はヒッチハイクの苦労を知らないのである。五時間もアウトバーンのパーキングエリアから動けないという制約を受けることなく旅が出来るのである!なんとも羨ましいかぎりではないか。出来ることなら私も来世は女に生まれて旅がしてみたい。





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Last updated  2008.05.20 11:19:25
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