職の精神史

2008/05/08(木)01:39

35.断る。これはすぐれて・・・

内定への一言(歴史/古典)(59)

※この文章は、2003~2006年に大学生・若手社会人向けに配信されたメルマガ『内定への一言』のバックナンバーです。 35.「断る。これはすぐれて、日本国の問題である」(勝海舟) 江戸城無血開城こそ、明治維新の奇跡だという解釈があります。僕は経済や産業、雇用の視点が好きなので、版籍奉還をやり遂げた日本人は本当にすごいと先人を尊敬しているのですが、江戸城無血開城も本当に偉大な業績です。 近代化を目指した多くの国は、韓国も含み、外国勢に呑まれて亡国の憂き目を見ています。その中でわが日本だけが異なる点が、やはりすごいと思うのです。 尊皇攘夷と開国佐幕の二派が激突して「尊皇開国」となったのが明治維新ですが、倒幕軍の中心をなした薩長の元締は西郷隆盛で、幕府の支柱となったのは勝海舟。 両陣営とも自説に基いた将来像を描き、それに従った政治の実現を求めて激しく争いました。薩摩藩はイギリスと戦争を起こし、それを機にイギリスの優れた軍備や科学技術を取り入れていきます。 修学旅行で訪れる鹿児島の尚古集成館や黎明館は、西郷隆盛が人生の師と仰いだ主君、島津斉彬公の研究所ですよね。世界の海を制覇した大英帝国は、強力な海軍力を誇っていました。 一方、幕府はフランスと組みます。ナポレオン三世治下のフランスは陸軍大国で、砲術や兵站技術で優れたノウハウを持っていました。幕府がフランスの意見を採用して軍備を強化すれば、憎き薩長をやっつけることができたかもしれません。 イギリスとフランスは周知の通り、インドや仏印、中国大陸で激しく競い、日本にもそれなりの野望を持って近付いてきたわけです。 他の国の政治家は、内紛相手の政敵を恨む余り、自国の軍備を採用してくれました。そうして相手国の政治や軍備を押さえた英仏は、その国ごと乗っ取って植民地を増やしてきたわけです。日本もそうなるはずでした。 薩長はイギリスの海軍力や艦砲技術を導入して幕府を倒そうと考えます。一方、幕府はフランスの軍事技術を導入して薩長軍を倒そうと画策します。どちらもお互いにとって強力な敵で、ともに天下を戴くことはできません。 しかし…。 両陣営のトップは対立の極致にありながら、「断る。これはすぐれて、日本国の問題である」と言い切り、日本人同士で話し合いで解決する道を選んだのです。 なんという偉大な決断でしょうか。僕は韓国に興味があって、ここ十年くらいは韓国の財閥興亡史や近現代政治史の本をよく買いあさってきました。 安昌浩や金九、全奉準、柳寛順、金玉均、大院君、高宗など、日本の教科書では名前しか触れられていない人物のゆかりの地を訪れては、本で読んだ史実を韓国語で質問して確かめ、自分なりに韓国に対する理解を十五回の旅行で深めてきました。 韓国は明治維新と同じ時期に、清国派の大院君、ロシア派の閔妃、日本派の金玉均が勢力を持っていました。韓国は、これがあの国の毎度の短所ですが、政敵を倒すため、外敵の軍事力や本当の謀略を見失って、外国の力を借りたのです。(今の盧武鉉政権も似たようなことをやっていますね。) 大院君は大院君で勝手に清国とコトを進め、閔妃は策謀に協力してくれたら朝鮮の一部を軍港として開港すると約束し、金玉均は日本に留学して福沢諭吉の門下で開明思想を学びます。誰も、「朝鮮民族として最大の幸せは何か」とは考えませんでした。とにかく、政敵が憎かったのです。 果たして韓国は、身内が血で血を洗う内紛を繰り広げ、日本に併合されました。金玉均は政敵にだまされて上海に連れ出され、暗殺されて死体を切り刻まれ、見せしめにされました。 朝鮮には、西郷隆盛や勝海舟に相当するような見識、世界観を持った政治家はいませんでした。僕がこのことを韓国語で韓国人に話し、「あんたら、日本のことゴチャゴチャ言ってるけど、本当は嫉妬してるだけだろ?日本の悪口を言ってストレス解消する前に、今も相変わらず北朝鮮、ロシア、アメリカ、中国が最大野党の政治をどうにかしたら?」と言うと、韓国人は悔しそうな顔をして、「それは、確かにそうだ」と言います。 インドやミャンマーでも同じようなことが起こっています。マレーシアやインドネシアは、イギリスやオランダの巧妙な嘘で騙され、愚民化教育を施されました。 だから、西郷さんや勝海舟は本当に偉大だと思うのです。私憤や党利党略を超え、「日本国として、どうあるべきか」という大局的見地から、決して集中が反れることはなかったからです。 イギリスやフランスは、日本も無教育の蛮族ばかりと思って高をくくっていたところが、「あんたらの助けはいらん」と断られ、逆に日本を尊敬しました。これは、すごくすごく偉大なことではないでしょうか。日本の未来を思わねば、できない決断ですよね。 日本の戦争がどうだったとか、いつまでも謝れとか、いろんな声があります。陸軍の暴走は僕も勉強しましたが、頑張って戦った兵隊さんが本当にかわいそうになるくらい、ミッドウェー以降はみじめな戦い方をしています。 しかし、近代化において日本ほど見事な見識を示し、かつそのビジョンに基いて国家を建設し、欧米にまともに歯向かった国が、果たしてアジアにあったのでしょうか。 損害や損失を与えたのも申し訳ないことですが、しかし、それと近代化を否定するのは別です。日本では安っぽいヒューマニズムがすぐに蔓延し、「戦争=悪」、「近代化=軍備増強」のように単純な図式がすぐに広がるのが、いつも議論をなくしてしまいます。 比較文明論の大家レヴィ・ストロースは、「野蛮人は矛盾に気付かない」と言っているそうですが(『文科の時代』渡部昇一・文春文庫)、自分の発言の矛盾に気付かない日本の教師や教授、主婦や学生も野蛮人なんでしょうか。 電気を使っていながら原発に反対し、日本のパスポートで旅行しながら祖国を罵倒し、親のお金で大学に通いながら、その授業をサボってバイトに明け暮れ、遊んでいるというのは、完璧な論理矛盾と言える理解不能の行為です。 会計的に見ても、毎日せっせと倒産に向かっているのと同じ。こういう視点で見れば、そういう人たちは「未開・未教育・未発達の蛮族」と言うことができるでしょう。矛盾に気付いていないのですから。 「みんなそうだ」と言わず、自分はもっとできるはずだ、という学生がFUNには多いため、僕は日本の将来に大変希望を感じていますが、世の中には「今しか遊べん」という貧乏神の教えを忠実に信奉して学生時代を過ごし、もはや二十五歳程度で使い物にならなくなった大人がいっぱいいます。 「あんたさぁ、大卒なんだからもう少し自分で本を読んで、勉強してみたら?」と、大学中退の僕はよく思いますが、理解が浅く知識の少ない大卒ばかりの世の中は、ラクラク儲けられて、生き易いと言えば生き易いです。ちょっと専門知識を並べれば、すぐに「そうですね」と納得してくれるからです。 西郷さんや勝海舟が決して逸らさなかった執着「日本のために」に相当する、あなた自身の大切なテーマとは何でしょうか。「内定」ではないでしょう。 そんなちっぽけで短期的な目標を持つから、悩みもそれに従ってくだらないものになってしまうわけです。ごちゃごちゃ言ってくる人はいつもいます。自分で考えて良い答えが出ない時は、人の意見に従ってしまいたくもなるでしょう。 しかし、本当に大事なことなら、「断る。これはすぐれて、自分の人生の問題である」と断り、自分で決断しましょう。若者なら、もっと大きく長く考えるべきです。 世の中には困っている人、人の助けを必要としている人がいっぱいいます。あなたは誰の何を解決して、どういう「ありがとう」を言われたいのですか?それこそが、あなたが頑張る理由ではないでしょうか。 FUNでやる就活は、そういう就活です。一人の若者といえども、天下国家や、社会、時代を見据え、大胆不敵に学び、どんどん失敗を繰り返して、人格、見識、考え方を深めていきます。 あなたの明日の行動は、あなたが今、何を思っているかで決まります。韓国のように、すぐに人の力を借りますか? 中国のように、その場しのぎのマニュアルで生きますか? 日本人なら、西郷さんや勝海舟のように、豪快で熱いビジョンを持って生きましょう。本気になれば、どうでもいいことは気にならなくなるものです。 今日の内容を深く知りたい方は、「江戸開城」(海音寺潮五郎・文春文庫)や、「最後の将軍」(司馬遼太郎・文春文庫)を読まれるといいでしょう。日本のため、何か頑張りたくなる名著ですよ。

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