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カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
昨日は琅燦の供述で戴国内で何が起きていたのかを書きましたが、今日は天が何を考えているかを楽俊が暴きます。とはいえ、あくまで推測ですが(^^ゞ で、「飄風の止む時」の後、泰麒らが蓬山に向かい、楽俊たちが関弓に戻るところから今日のお話は始まります。ケッコウ長いので前振りは短めです(^^ゞ
「天の裁可」 乗ってきた「みけ」を李斎に貸してしまった楽俊は、班渠に乗って蓬山に向かう陽子から騎獣を借りることになった。王の騎獣を借りるなどとんでもないと固辞したが、陽子がそれを許さず、延王が「借りとけ」と命じたので従ったのだ。鴻基から関弓までは雲海の上を使令や趨虞に乗っていけばほぼ一昼夜だが、雲海の下を騎獣で渡るには、両国を隔てる虚海の沿岸でそれぞれ一泊することになるので、ほぼ三日の旅程となる。楽俊は関弓で陽子を待つことになる虎嘯らとともに関弓に戻り、虎嘯らは掌客殿につめることになった。虎嘯は自分が蓬山に行けぬことは仕方ないとはわかっていたが、それでも護衛ができぬことが悔しかった。その気持ちが解るだけに、秋官長への報告を終えた楽俊はその夜酒瓶をもって虎嘯の元を訪ねた。三日間鞍を並べていたのにほとんど口も利かずにいた虎嘯も楽俊の気遣いに感謝していた。 「無事蓬山にお着きになりましたでしょうか」 「雲海の上なら使令や趨虞なら鴻基から二昼夜というところですから、今頃は碧霞玄君からお話を伺っている頃でしょう」 「何事もなくお戻りになっていただきたいもんだ」 「そうですね」 「それにしても泰王はどうなるのかな?」 「人の手によってなったものですから天であれば癒せるのかもしれません。が、泰麒のこともありますのでわかりません」 「そうだよなぁ、泰麒の使令の穢れを取るのにも二年くらいかかったんだって?」 「ええ、蓬莱での六年分の穢れでしたから。でも、泰麒が使令を御せるまで蓬山で預かっていたのかもしれません。今度は阿選の十年余りの呪詛が泰王にかかってますから、容易ではないかもしれませんね」 「それにしても、何であんなに戴が荒れたのに泰麒は失道していないんだろう?」 「それも不思議ですよね。その答は蓬山であればおわかりではないでしょうか?」 「どちらにせよ、雲の上の話か…ってここも雲の上だったな」 「そうですね、雲の上にいてもさらに上に手の届かぬ場所がある…おかしなものですね」 「そうだな、俺が雲の上で暮らしているってのも変なもんだしな…舎館の主人が大僕だからな」 「私などは巧では少学にもいけぬまま朽ちるだけだったのが、玄英宮で官吏です。不思議なものですね。…そういえば虎嘯殿の弟の夕暉殿は十代で大学に入った俊英だとか?」 「どうなんだろうな…俺とは頭の出来が違うってのは解っちゃいたけどどうもピンとこないんだ。最近は勉強が忙しいとか言い訳してろくに顔を見せにもやってこないからかもしれないな」 「雲の上に遠慮があるんですかね?」 「どうなのかな?頭のいい奴の考えることは良くわかんないよ…っと、失礼、あんたも頭のいい奴だった」 「いえいえとんでもない、夕暉殿のことは気になっているんですよ。夕暉殿が官吏になる前に慶に行かないと私の居場所を獲られてしまうらしいので心配なんですよね」 「雁から慶へ?何でまたそりゃもったいないとか思わないのかい?」 「雁は完成された場所です。慶はこれから作り上げていく場所です。どちらも勉強になります」 「ふ~~ん」 「楽俊!いるか?」 「宰輔」 虎嘯が不得要領な呟きを発した時、長窓から延麒が飛び込んできた。 「悧角が遁甲して蓬山から一足先に戻ってきた。明朝に玄英宮に寄ってすぐ白圭宮まで行くそうだ。尚隆も陽子も行くようだから…虎嘯、お前も行くか?」 「はい」 「なら、虎嘯には「たま」を貸してやる。帰りに返してくれりゃ良い。楽俊、お前は悧角に乗れるな」 「はい、おそらく」 「本当なら俺も行きたいが戴はまだ麒麟には刺激が強すぎる。尚隆がいるから悧角も送り込めるがそれまでだ。雲海の上を飛び続けるのは相当にキツイから特に陽子を気遣ってやれ。できればここから帰ってもらいたいんだが…」 「景王も頑固ですからね。最後まで見届けたいとごねているんでしょうね」 「ああそうだ。だから、虎嘯、しっかり守ってやれよ。尚隆もいるがあれはジジイだからな。楽俊、帰りは「みけ」を返してもらってそれに乗って来い。おそらくは悧角を先触れによこすだろうからな」 「はい」 「それにしても尚隆の奴、用事だけしか伝えてこない。驍宗はどうなったかくらい知らせろよな!」 * * * * 翌払暁。蓬山から戻った一行は軽い休息を取っただけで虎嘯と楽俊を一行に加えて鴻基へと飛び出してゆく。鴻基までの一昼夜、誰一人として口を開こうとしない重苦しい雰囲気のまま飛び続けた。驍宗は泰麒の御する傲濫の上で汕子に抱きかかえられ、身動き一つしていないようだった。先行する李斎は血が滲むほど唇を噛み締めており、その視線だけで人を射殺せるくらいの雰囲気をまとっていた。傲濫の左右に位置する景王と延王はしきりと何かを考えているようであり、虎嘯と楽俊は黙って見ているしかなかった。白圭宮につくと驍宗は正寝の臥室へと運ばれ、延王らは掌客殿へと導かれた。やがて李斎が掌客殿へと現れた。 「延王君、景王君、この度は過分なご配慮を頂き真にありがとうございます」 「いや、冢宰殿。我々はただついて行っただけ…野次馬並みだな」 「とんでもございません。主上が見つかったのも楽俊殿がいらしたお蔭です。以前に泰麒を連れ戻していただいたのも皆さん方のお蔭ですし、様々な援助をしていただいております。なのに私が仮朝の冢宰などにされるとは… 不才ではございますが、なにとぞよろしくお願いいたします」 「いやいや、天帝や王母が認めたことだ。自信を持ってことにあたってもらいたい」 「私自身いまだに信じられません。何ゆえ私などを…」 「以前泰麒を連れ戻した時に王母に食って掛かったのは、李斎、お前だぞ。忘れたとは言うまい」 「…はい、あの時は泰麒を救うために必死でしたので…」 「それゆえにあの時王母は泰麒の穢れを払い、使令もやがて返してくれた。それに対する応えを李斎に求めているのではないか?自分たちでどうにかしろとな」 「そうですね。自分たちでどうにかしなければいけないんですね」 李斎が俯き、会話が途切れる。ややあって李斎は「ごゆっくりと」と挨拶をして出て行く。延王と景王がそっと溜め息をつく。それまで口を開かなかった景王が延王に語りかける。 「どうにかなると思いますか?」 「どうにかしてもらわないと困る。当分戴には王がいないことになるからな」 「え?」 「ああ、楽俊と虎嘯は知らせてなかったな。こういうことだ。蓬山に行くといつも通り一晩待たされた。そして翌朝壁霞玄君が天帝や王母の応えを語ってくれた。驍宗は治る見込みがないとな」 「ええ??」 「極薄くだが玉に覆われてしまっている。魂魄は阿選に奪われてしまったのか、見つからない。したがって王気が泰麒にも見えなかったんだろうな。驍宗には王気がなかったんだからな。桃幻香を相当に煮詰めて冬器に塗り、それで刺されたから驍宗は昏倒してしまった。放り込まれた玉泉にも桃幻香が入れられていたようだ。そして阿選の幻術で魂魄を抜かれた… 術を施した阿選が仙から除かれ死ねば驍宗はもとに戻るかも知れぬが、驍宗も死ぬかも知れぬ。このまま阿選を幽閉しておくか、仙から除いて死なせるか、驍宗がどうなるか解らぬだけに手も出せぬ。驍宗は生きてはいるけど人形とかわりがないのだ。それでも王は王だからな。もし、意志があり、王位を降りて禅譲できれば新たな王を選ぶこともできるのだが…」 「では、王の抜け殻だけで国を治めよということなんですか?」 「そこがわからぬのだ。もはや王でないのなら麒麟を失道させて王を滅ぼし、新たな麒麟と王を作ればよい。けれども泰麒は失道していない。これは王が道に外れたことをしていないからだ」 「でも、戴には妖魔が跋扈していましたが」 「それは麒麟がいなくて、王が郊祀を行っていないからだ。麒麟がいて郊祀が行われれば国も治まる。泰王は今それができぬから李斎を冢宰とし、特別に冢宰に郊祀を執り行えるように天帝や王母が取り計らったらしい。が、あくまで冢宰は冢宰だから路木に新たな草木を願うことはできぬらしい。が、天候だけは安定するそうだ」 「では、長く仮朝が続くと?」 「実質的には李斎が王と呼ばれても構わぬと思うのだが、李斎は昇山したときに一度泰麒に王でないと見做されている。そのあたりのこともあるのかも知れぬな。まぁ、天帝や王母が考えることは解らぬことが多い」 「泰麒は複雑だろうね。自分が王と見定めた人は意識のない人形。死んだわけではないのにその代わりを押し付けられる。それがずっとそばにいた李斎だというのはまだ救いなのかも知れないけど」 「そうだな…驍宗をあのままにしておく意味がわからぬ」 景王の洩らした言葉に延王が答える。が、それも新たな問いになる。楽俊が口を開く。 「泰王は泰麒に隠れて官の粛清をなされました。まだ幼い麒麟だったとはいえ、隠してはいけなかったのでしょう。常に民の声の象徴である麒麟と向き合っていなければ王は民のことを忘れてしまいます。モチロン麒麟の言うことだけを聞いていてら政務などできないでしょう。王は麒麟と闘い続けるから王であると天は考えているのではないでしょうか。だから麒麟に隠れて独走した泰王を罰し、泰王を諌められなかった泰麒を罰したのではないでしょうか。麒麟がいくら幼いとはいえ何もできないというのも一つの罪だと天なら判断するかもしれません。それゆえ、泰麒は阿選に角を断たれ、麒麟としての力を封じられ、蓬莱で苦しむことになった… 阿選もまた天にとっては一つの駒に過ぎないのでしょう。自分を選ばなかった麒麟を蔑ろにし、王位を奪わせたのも驍宗の心の合わせ鏡のようにも思われます。阿選こそが驍宗であると知らしめるのが天意であり、相応の報いを戴は受けました。阿選の犠牲になった多くの民もまた驍宗の罪の罰を受けたのかもしれません。麒麟を蔑ろにする王が玉座にいれば国は滅ぼされるということです。それを阿選を使って知らしめたのかもしれません。…そして何より、阿選は偽王です。王ならば麒麟を失道させて斃すことも出来ますが、偽王では天が直接斃すことは出来ません。真の王たるものが阿選を裁けということだと思います。しかも阿選を裁くということは同時に驍宗を裁くことでもあるんです。驍宗を許すなら阿選を処断することはできず、阿選を処断するには驍宗を弑する、大逆を行うだけの覚悟がいるということです」 「なるほど、天はそれを李斎に迫っているのだな。麒麟と向き合えぬ、民の総意を無視する者をどう処断するかを麒麟と向き合って決めろということか」 「あくまで推測ですが」 「…李斎には時間がある。冢宰として郊祀を代行し、国を落ち着かせることができる。その間に時間をかけて泰麒と話し合い、どうするかを決めればいいんだからな。そう…驍宗は急ぎすぎた。泰麒が幼いからといって泰麒を無視してことを進めた。やらねばならぬことは麒麟を納得させることだったのに… 俺は胎果ゆえに二十年ほどかけたが、それくらいで丁度良いのかも知れぬな」 「そうか…では私も慌てぬようにしなければいけないのだな…」 景王が洩らした言葉に楽俊はなんと言って好いのか解らなかった。自分が行くまで慌てないでくれといえばよかったのか?じっくりとやっていれば自然と道は開けるとでも言えばよかったのか?結局楽俊は黙っていた。延王が苦笑しながら景王の肩を軽く叩き、景王も苦笑を返す。 翌日悧角を先触れに帰し、四人は雁へと戻った。雲海の下とはいえ趨虞は速い。景王一行は玄英宮で一泊し、慶へと帰っていった。それを見送った楽俊はふと呟いた。 「天とは厳しいものなのだな」 緋色の髪と碧の瞳を持つ少女が天に負けないようそっと願った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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